大接戦のまま11月5日の投票日を迎えた米大統領選は、民主党のハリス副大統領と共和党のトランプ前大統領のどちらが当選するか5日(日本時間6日)中に判明しない可能性も出てきた。また、同時に行われる上下両院選は、上院で共和党が過半数を獲得する勢いを示している一方、下院は接戦が続いている。
もし、トランプ氏が当選し、上院、下院とも共和党多数の「トリプルレッド」になれば、トランプ氏が提唱している”過激な”関税引き上げ策が短期間で実現する可能性が大幅に高まることになる。他方、ハリス氏が当選しても上院の共和党過半数は動かないとみられているため、政策実行に欠かせない重要法案は成立が見込めず、当面は大統領令によって実施できる範囲でしか政策が実行できない可能性がある。大統領と議会の組み合わせで何が起きるのかシミュレートしてみた。
1.トランプ大統領と上院・下院とも共和党多数
現在の上院は民主党が51(無所属4を含む)、共和党が49の構図。上院選は2年ごとに約3分の1ずつ改選し、今回は民主党が23、共和党が11が選挙の対象となっている。今のところ、改選数の多い民主党が守勢に回り、共和党が過半数を奪還する勢いとみられている。
任期2年の下院は435議席の全議席が改選される。今のところ、民主党と共和党の議席が伯仲しそうだとの予想が多いものの、過去のデータから見ると、大統領を当選させた党派が下院でも多数を握るケースが多かった。
トランプ氏の当選と上下両院で共和党の多数獲得という「トリプルレッド」になった場合、来年1月の就任式以降、トランプ氏の提唱してきた政策が着実に議会を通過し、成立する公算が大きくなる。2025年末で失効するトランプ減税の恒久化法案が成立し、法人税の減税法案も大きな障害なく議会を通過して大統領が署名して成立するだろう。
同時に対中関税を60%もしくは100%に引き上げ、その他の国に対しても10-20%に引き上げるというトランプ氏の関税引き上げ案も実現する可能性が大幅に高まる。
移民政策の厳格化も短期間に実施され、関税引き上げと移民制限による人件費上昇を背景として消費者物価指数(CPI)は上昇圧力を強め、市場では「インフレ再燃」という言葉が跋扈(ばっこ)するかもしれない。
こうした中で、利下げを強く主張するトランプ氏と米連邦準備理事会(FRB)との間で政策金利の調整をめぐって緊張感が高まる展開も予想される。特に人事の承認を担当する上院で共和党が多数を確保している状況では、親トランプ派の人材をFRBに送り込むことも予想され、FRBの独立性にマーケットの関心が集まる事態も現実味を帯びることになる。
マーケットは株高・ドル高・長期金利上昇で反応するだろうが、来年のどこかの時点でインフレ再燃や米中関係の険悪化などを織り込んで、米長期金利の一段上昇や米株下落に転じることもあり得る動きとみておくべきだ。
2.トランプ大統領と共和党多数の上院、下院は民主党多数
このケースでは、民主党が下院で反対に回ると予算の執行を伴う法案は成立を阻まれることになる。そこでトランプ氏は、1期目でも多用した大統領令を出して対応することが予想される。通商政策や移民政策、規制の修正や廃止などは大統領令で対応が可能というのが、これまでの米国における法解釈の多数意見だ。
移民に関する規制の強化や移民の受け入れに前向きなルールの撤廃は、大統領令で対応が可能とされている。ただ、現在もつなぎ予算で綱渡り(2024年12月20日までが有効期限)を強いられている予算案で共和、民主両党の妥協が成立しない場合、政府閉鎖などの展開も可能性としては残る。
いずれにしても、トリプルレッドと比べて大幅にトランプ氏の政策の達成度が下がり、株高・ドル高・米長期金利上昇(米国債売り)というトランプトレードがどこかの時点で大幅に巻き戻されるリスクが出てくる。
3.ハリス大統領と共和党多数の上院、民主党多数の下院
2のケースのようなねじれが生じる点では同様だが、マーケットにはハリス氏が主張している消費者保護を念頭に置いた価格政策や法人税の引き上げ、富裕層を対象にした増税が実行できない点を好感し、米株価はハリス氏当選直後の下落から、一定の時間を経過した後に反転するとの見方が広がっている。1とは異なって米長期金利の上昇幅は限定的となるだろう。
2と異なるのは、政府高官などの人事が共和党支配の上院で承認されず、様々な分野での人事が停滞する可能性が高まることだ。
ただ、大統領令で対応できる範囲の政策は、2と同様に広範にわたって実施されるとみられる。
4.大統領選から1カ月が経過しても当選が確定できないケース、暴動発生のリスクも
接戦になった場合は、票の再集計をすることがルール化されている州がある。例えば、激戦7州の1つであるペンシルベニア州では、1位と2位の候補者の得票率が0.5%ポイント以内の差だった場合、再集計することが義務付けられている。
また、郵便投票分の開票が遅れたり、その他の開票作業のあり方について候補者から異議が提起された場合などは、当選確定まで長期間かかる可能性もある。
過去には、2000年に共和党のジョージ・ブッシュ氏と民主党のアル・ゴア氏がフロリダ州で大接戦となり、開票結果や開票の方法を巡って連邦最高裁まで法廷闘争が続き、当選の確定に1カ月超の時間がかかった例もある。
このケースでは、政局の不透明感を嫌った米株下落が予想され、それが日本株を含めた世界の株価に大きな影響を及ぼす展開も予想される。
さらに今回は、開票結果に不満を持った陣営の支持者らが各州で暴動を起こすことも事前に米メディアなどで指摘され、もし、そうした事態が現実に起きることになれば、世界中に不安感が伝染し、マーケットがグローバルにリスクオフへと急展開するというリスクもある。
米メディアの一部では、11月5日が新たな混乱のスタートになると報道しているところもあり、何がこれから起きるのか、全世界が注目していると言ってもいいだろう。
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