一歩先の経済展望

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円安進展のカギ握る米長期金利、注目される邦銀の判断 FRB議長は何を語るのか

2024-11-07 15:30:28 | 経済

 米大統領選で共和党のトランプ前大統領の当選が決まり、市場の注目は株価の振幅に集まっているように見えるが、東京市場の参加者の多くが関心を持っているドル/円の行方を決めるのは、10年米国債利回り(長期金利)の動向だ。6日のNY市場では一時、4.479%と7月以来の高水準に上昇。ドル/円を154円台のドル高・円安水準に押し上げた。

 8月に米長期金利が急低下して以降、日本の銀行(邦銀)は大量に米国債を買い上げてきたが、足元での利回り急上昇でかなりの含み損を抱える展開となり、複数の市場筋は日本の銀行が米国債をロスカットすれば、節目の4.5%を突破して上昇に弾みがつく可能性があると指摘する。

 また、7日(日本時間8日未明)の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の会見で、パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長が今後の利下げパスについてどのように発言するのか、その内容次第では米長期金利が上下に大きく振れる余地があるだけでなく、来年1月以降のトランプ新政権の下でのFRBのスタンスを探る意味でも大きな注目を集めている。

 

 <トランプ氏当選で米長期金利の上昇に拍車、10年債で含み損抱える邦銀>

 6日のNY市場では、トランプ氏が大統領に就任すれば、財政赤字拡大とインフレ高進につながるとの見方が台頭して米国債の利回りが各年限で上昇(価格は下落)。10年米国債は前日比15.3ベーシスポイント(bp)上昇の4.441%で大方の取引を終えた。

 7日のアジア取引時間帯では、利益確定の買い戻しも出て10年米国債は4.42%台での取引時間が多くなった。次の節目は4.5%を突破するかどうかだが、短期的に注目されているのは日本の銀行勢の動向だという。

 というのも8月2日に発表された7月米雇用統計は、非農業分野の雇用者数が、市場予想の前月比17万5000人を大幅に下回る11万4000人となり、10年米国債は3.9%台に急低下。その後、9月半ばにかけて3.6%台まで低下したところで、日本の銀行勢が大幅に買い越していた。

 財務省の投資主体別の対外中長期債の売買動向によると、銀行は8月にネットで2兆5429億円の買い越しとなり、9月は同2兆2154億円の買い越しだった。

 ところが、10月に入ると10年米国債の利回りは上昇を続け、10月21日には4.2%台を付けその後も上昇が止まらなかった。10月の投資主体別の動向はまだ発表になっていないものの、週次のデータを合算すると銀行を含めた日本勢は、9月29日から10月26日までの4週間にネットで1兆1887億円の売り越しとなった。

 筆者は、上記のデータから類推して、日本の銀行勢は含み損を抱えたままの米国債を4兆円前後抱えているとみている。今後、10年米国債の価格が上昇(利回りは低下)すれば含み損は減少していくことになるが、今のところ米国債が値上がりしそうな材料は見当たらない。さらに損失が膨らむと日本の銀行勢が判断すれば、ロスカットに踏み切る可能性がかなりあるのではないか。そのケースでは、10年債の4.5%突破を後押しする動きになる。

 

 <米長期金利が4.5%突破ならドル155円超の円安も、注目されるパウエル議長の発言>

 市場の一部には、10年債が4.5%を突破すれば、いったんは5%台まで一気に利回りが駆け上がるとみる声があり、そのケースではドル/円が155円からさらに円安となって160円が視野に入ることもあるという見方が出ている。

 そうなるかどうかを左右するのが、パウエル議長の会見での発言だ。足元のインフレ率低下や雇用統計の弱いデータを取り上げて利下げスタンスの維持を鮮明にすれば、10年債の利回り上昇に歯止めがかかるとの声もある。

 他方、データ次第と言いながら足元の2024年7-9月期の国内総生産(GDP)伸び率が前期比・年率2.8%と高かったことなどに言及し、ターミナルレート(利下げの最終到達水準)が市場予想よりも高止まりしそうだと連想させるような発言をすれば、米長期金利の上昇が続くことになるだろう。

 さらに米財政の拡張(赤字拡大の可能性が高まる)や大胆な金融緩和を志向するトランプ新政権のマクロ政策に対し、パウエル議長がどのような発言で対応するのかにもかなりの関心が集まっている。

 

 <円安加速と日本の物価上昇圧力、日銀の情勢判断はどうなるのか>

 この状況を日本から見れば、米長期金利の上昇加速はドル高・円安を招く可能性を高め、今年7月のような物価上昇圧力の高まりを日銀が意識することになるのかどうか──という点に市場の関心が集まることを意味する。

 足元の市場では、12月の日銀利上げを10-11bp、来年1月まで見ると19bp程度織り込んでいる。少数与党に転落した石破茂首相が利上げに慎重な姿勢を維持しているのか、キャスティングボートを握る国民民主党の玉木雄一郎代表が複数のメディアに来年3月までは利上げするべきでないと発言していることが影響するのかどうか。米長期金利の動向は、日本政府と日銀の判断に大きな影響を与えかねない要素として浮上している。


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