一歩先の経済展望

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中国の資産デフレ深刻化、EⅤ輸出加速へ 東南アジアで日本勢に打撃も

2024-06-17 13:58:05 | 日記

 中国の資産デフレが深刻化しつつある。国家統計局が17日に発表した5月の新築住宅価格指数は、70都市のうち68都市で4月から下落し、1-5月の不動産投資は前年同月比10.1%減となり、1-4月の同9.8%減からマイナス幅が広がった。

 同日に発表された5月の小売売上高は3.7%増と4月の2.3%増から伸びが大きくなったものの、12日に公表された5月の消費者物価指数(CPI)は前年比0.3%増にとどまっており、資産デフレが消費に波及してモノやサービス価格のデフレ色を強める構造に大きな変化は起きていない。

 内需の不振を外需でカバーしようとしていた中国にとって、イタリア・プーリアで開催された主要7か国(G7)首脳会議で中国製電気自動車(EⅤ)や太陽光パネルの安値での過剰生産問題に懸念が表明されたことは痛手になった。実際、米国と欧州連合(EU)は相次いで効率の追加関税を中国製EⅤに課すと発表。外需での危機脱出という中国の戦略に暗雲が漂っている。

 この事態は日本から見ると、国内自動車メーカーが東南アジアで中国製EⅤの攻勢を受け、金城湯池だった高シェアを奪われるという新たな危機の発生を意味する。日本政府が傍観していると、東南アジアでの国内メーカーの採算が急速に悪化し、自動車業界に大きなショックが発生しかねないと筆者は指摘したい。

 

 <中国の不動産支援策、今のところ効果見えず>

 冒頭で言及したように、中国の資産デフレは深刻化している。中国政は5月17日に総合的な不動産支援策を発表し、地方政府による一部のマンションの買い取りや、住宅ローン規制の緩和などを打ち出したが、今のところ効果は限定的なようだ。

 70都市の新築住宅価格の下落幅も、北京や広州、深センなど主要都市で大きくなっており、資産デフレの症状が好転するどころか深刻化する兆しをうかがわせる結果となった。中国ではGDPの約3割を不動産業が占めており、1-5月の不動産投資が前年同月比10.1%減と大幅に減少していることは、内需の低迷が長期化する可能性を強く示唆している。

 

 <5月の自動車輸出は前年比16.6%増>

 この危機を外需主導で乗り切ろうと中国当局が舵を切っていることは間違いない。6月7日に公表された5月の中国貿易統計では、輸出が前年比7.6%増と2カ月連続で増加した。一方、輸入は同1.8%増と内需の弱さを示す結果となった。

 輸出の好調を支えたのは、半導体関連製品に加えて自動車だった。前年比16.6%増と大きく伸び、米欧当局の懸念を裏付ける結果となった。米欧の追加関税措置の実施までに「駆け込み需要」が発生し、しばらくは自動車輸出の伸びがさらに拡大する可能性が高い。

 

 <米欧が高関税、東南アジアに中国勢シフトか>

 しかし、中長期的には対米欧向けの自動車輸出は禁止的高関税によって、いずれ数量が減少に転じる時が来る。それを予期して中国メーカーは経済成長が著しく、安いEⅤを求めている東南アジアや中南米への輸出増を図るとみられている。

 すでにタイでは、2019年に約9割だった日本車のシェアが、2023年末には80%を割り込み、中国勢は2桁に乗せた。日本勢のシェアが9割を超えていたインドネシアでも、安いEⅤを売りに中国勢の攻勢が目立ち、ジリジリトとシェアを低落させている。

 9割のシェアを維持している場合、利益率は相当に高かったとみられるが、シェアの低下は販売台数低下の割合以上に利益率が低下する可能性を高める。このまま中国製EⅤの安値販売を日本政府が傍観していると、どこかの時点で中国勢のシェアが急上昇し、日本勢のシェアが急低下する局面は訪れることになるだろう。

 その時になって「東南アジアでEⅤショック」が発生したと大騒ぎしても、「時すでに遅し」だ。日本政府は米欧当局の関税引き上げの根拠となっている中国政府の補助金実施のデータなどを共有し、実効性のある対応策を早急に検討するべきだと指摘したい。

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