フィンランド建築・デザイン雑記帳

森と湖の国、SUOMIのクリエーター達に想いをよせて....
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フィンランド独立の年(1917年)、建築家 エリエル・サーリネンが  デザインした切手

2006年04月01日 | フィンランドデザインの根


あまり知られていないが、1917年のフィンランド独立に際し最初の郵便切手をデザインしたのは、建築家サーリネンである。
サーリネンとは、「ヘルシンキ中央駅」や「国立博物館」などの設計でよく知られるエリエル・サーリネン(Eliel Saarinen) のことで、エーロ・サーリネン(Eelo Saarinen)のお父さん、フィンランド・ナショナル・ロマンティシズム期の巨匠である。

1900年代初め、ロシアの統治下にあったフィンランドでは、民族意識が高まり、芸術家達はこぞって民族的精神を表現した。 
画家のガッレン・カレラ(Akseli Gallen-Kallela)、作曲家のシベリウス(Jean Sibelius)、そして建築家のサーリネンなど、独立運動は文武両面から高まった。
フィンランドは、1904年のロシア総督暗殺の後、1917年のロシア革命を機に独立を達成したのである。 
独立の年1917年、サーリネン44才、「ロシアのサーベルをライオンが足で踏みつけている」という絵柄の「フィンランドの紋章」を取り入れたこの切手には、サーリネンのフィンランド独立の喜びと、建国への意欲が満ちているかのようである。


フィンランド独立の背景として、1800年代末の民族意識の高まり、ナショナルロマンティシズム(National Romanticism)などを簡単に説明しておこう。

1800年代末、当時ロシアの統治下にあったフィンランドで民族意識が高まりつつあった。
民族意識の高まりのきっかけとなったのは「カレワラ(Kalevala)」である。
「カレワラ」とは、フィンランドの民族叙事詩のことで、フィンランド東部カレリア地方に伝わる口承詩を、医師のエリアス・レンロート(Elias Lönnrot 1802-1884年)が採取、構成し1835年に出版されたものである。
この本は出版されるや多くの国民に読まれ、民族意識が著しく高められた。
芸術家達はこぞって「カレワラ」を取り上げ、「カレワラ」の精神を表現し続けた。
画家のアクセリ・ガッレン・カレラ(Akseli Gallen-Kallela 1865-1931年)は「カレワラ」で歌われた物語を題材とし、作曲家のジャン・シベリウス (Jean Sibelius 1865-1957年) は愛国心に満ちた名曲「フィンランディア(Finlandia)」を作曲した。
「カレワラ」に啓発され、人々は、自らのアイデンティティを模索し、自然との共生といった伝統に基づいたフィンランド的な民族文化の確立を強く求められるようになった。 これが「ナショナル・ロマンティシズム」の発想である。

今回、紹介した切手のデザインをしたエリエル・サーリネンは、勿論この「ナショナル・ロマンティシズム」の代表的な建築家である。
フィンランドのどこにでもある石、花崗岩を使い、入り口に石彫の熊を配した、ヘルシンキの「国立博物館」(1901-1910年完成)や「カレワラ」の物語に登場する4人の男の像を配した「ヘルシンキ中央駅」(1904-1914年完成)は、その代表的作品である。

画家ガッレン・カレラ、作曲家シベリウス、建築家サーリネンらの民族意識を高揚させるような活動は、フィンランドの独立運動として文武両面からの高まりをみせ、その結果1917年のロシア革命に乗じて独立を達成したのであった。

エリエル・サーリネンは、その後1922年にフィンランドの紙幣(フィンランド・マルッカ札)もデザインしている。




1マルッカ切手。
エリエル・サーリネンが1917年にデザインした切手の色違い。



フィンランドの紋章(Coat of arms of Finland)

フィンランドの紋章(Coat of arms of Finland) について
フィンランドの国を象徴する紋章は「剣を持ったライオン」である。
先日のトリノオリンピックで活躍したアイスホッケー・フィンランド・ナショナルチームの愛称は「レイヨナット(Leijonat)」=「ライオン達」で、彼らのユニフォームの胸に誇らしげにライオンの紋章が付いていたのを覚えている人もいるだろう。
また、フィンランドの国旗は白地に青の十字だが、公式行事などでは旗の真ん中にライオンの紋章の入ったものが使用される。
なぜフィンランドの国の紋章がライオンかというと、起源は1560年のスウェーデン統治下、スウェーデン国王グスタフ・ヴァーサ(Gustav Vasa、1496-1560年)の時代までさかのぼる。
この時代から、ライオンのシンボルがフィンランドの公式な紋章として使われたという。
紋章には、2種類の刀が描かれているが、足の下に踏みつけたような刀はロシアのサーベルで、当時ロシアとスウェーデンが戦争をしていたという情勢を反映している。
背景に描かれた9輪のバラの花は、当時のフィンランドの9つの州 (地域) を表しているといわれている。



アイスホッケー、フィンランド・ナショナルチームのユニフォームについている「SUOMI」の文字とライオンのシンボル。



公式行事に使用されるフィンランド国旗。ライオンの紋章が入っている。



フィンランドの紋章をデザインした切手。
EU加盟前のもので、10マルッカと20マルッカという高額な切手。



これは1967年、アメリカで発行されたフィンランド独立50周年記念のもの。



EU加盟前、ついこないだまで使われていたフィンランドの通常切手。その1
デザインは、サーリネンがデザインしたものとほとんど同じである。



EU加盟前のフィンランドの通常切手。その2


●フィンランドの郵便事業が民営化された後、「フィンランドのライオンの紋章」がモダンにデザインされた切手が発行されている。

【写真・撮影】 管理人


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