自燈明・法燈明の考察

法華経の思想性について(6)

 見宝塔品第十一、提婆達多品第十二につづいて、勧持品第十三では釈迦滅後に法華経を弘める事を、各々がが釈迦に誓います。薬王菩薩を始め多くの菩薩達は、後の悪世の世の中でも大忍力を以って身命を惜しまずに弘める事を誓い、多くの阿羅漢を得ている弟子は、娑婆世界ではなく他の国土で弘める事を誓います。

 しかし釈迦は何も語りません。

 そして安楽行品第十四に入り、文殊菩薩が代表して釈迦に、後の悪世の中で、法華経をどの様に弘めたら良いかという事を質問した事に対して、釈迦は四安楽行という事を説くのです。

 ここまでは、話を割愛し、クライマックスの序章とも言うべき、従地涌出品第十五へと話を進めます。ここではかなり噛み砕いた読み方で進めます。

◆地涌の菩薩について
 従地涌出品第十五の冒頭、娑婆世界以外から来集した八劫河沙という膨大な人数の菩薩が釈迦に言います。
 「もし釈迦が仏滅後この娑婆世界で法華経を弘める事を許してくれるのであれば、私達はこの世界に法華経を弘めていきます。」

 すると釈迦は言うのです。

 「止めなさい!貴方達がこの経を弘める事は不要である。何故ならば私はこの娑婆世界で六万劫河沙の菩薩の弟子が居ます。彼らが私の滅後にこの娑婆世界で法華経を弘めていくのです」

 この様に釈迦が説くと、三千大千世界の国土が大きく揺れ、地面が裂け割れると、数えきれないほどの大菩薩が同時に涌出してきたのです。これら大菩薩達は皆金色に光輝き、仏と同じ姿をしていました。この大菩薩達は娑婆世界の下、その世界の虚空の中に居て釈迦の言葉を聞いて出現したのです。

 国土の大地が揺れ裂けて、そこから涌出した事から、これら菩薩達は通称「地涌の菩薩」と呼ばれています。

 見宝塔品から始まった虚空会では、宝塔が出現し、多宝如来が出現した事から始まりました。そして宝塔は娑婆世界の大地から涌出してきましたが、この地涌の菩薩も宝塔や多宝如来と同様に、大地が裂けてそこから涌出してきたのです。

 ただしスケールがあまりに違いすぎる。

 宝塔はこの地、経典上で解釈すれば霊鷲山のある大地、広く言えば地球の大地から涌出したのに対して、地涌の菩薩は三千大千世界(宇宙)の大地が震裂し、その大地から涌出しました。ともに「大地から涌出」とは言っても、明らかにスケールが地涌の菩薩の出現の方が大きいのです。
 またその数は六万劫河沙という途方もない人数であり、それぞれの菩薩にまた六万恒河沙の弟子や、様々な人数の弟子もついています。この数は法華経の会座に参集した人数と比較しても、途方もなく膨大な人数です。

 それだけではありません。地涌の菩薩は皆、金色に光り輝き仏の姿を具えていたというのです。こうなると従地涌出品からの情景は、釈迦の前には見渡す限り金色に光り輝く仏の様な姿をした地涌の菩薩とその眷属に埋め尽くされている状況になっています。

 これら菩薩達は釈迦・多宝の二仏に挨拶し、また諸々の仏や菩薩達に挨拶するまでの間、五十小劫という長い時間を要しましたが、虚空会にいた人々は釈迦の神力により半日にしか感じなかったといいます。

 もうこの段階で正直、法華経の会座は、人間の持つ時間や空間という概念は通用しない状況になっていました。

 そしてこの膨大な地涌の菩薩には4人の上首(指導者)がいました。その四人の名前は上行・浄行・無辺行・安立行という名前の菩薩です。この四人の指導者は釈迦に対して挨拶をします。

「釈迦はお元気でおられましたか、私達を教化するのは疲れる事でしょう。私達は教え易い人でしたか?疲れさせる事はなかったでしょうか?」

 すると釈迦は答えます。

「私は元気で問題ありません。貴方たちを教化する事は何も難しい事ではありませんので疲れる事はありません。何故なら貴方たちは、いままで長い間、常に私から教えを受けてきましたし、私の姿を現し始め、そこで私の説いた教えを聞いてから、すぐに教えを信じて習い修めてきました。」

 この様に地涌の菩薩と釈迦のやり取りを見ていた時、人々の中には大きな疑念が生じてきました。その事について弥勒菩薩も感じていて、釈迦にその疑問をぶつけたのです。

「この素晴らしい姿をし、大神力を持ったこの膨大な人数の菩薩達(地涌の菩薩)を、私は今まで見聞きもしたことがありません。彼等はどこから来たのでしょうか?」

 すると釈迦は弥勒菩薩に答えます。

「弥勒菩薩よ、よく仏の大事な事について質問をしました。これからその大事な事を述べるので、しっかりと心を落ち着け、動揺しないで聞きなさい。」

 釈迦は続けます。

「この多くの大菩薩達は、私がこの娑婆世界で悟りを開いてから、教化して指導をしてきた人達なのです。この菩薩達はこの娑婆世界の下にある世界の虚空に住んでいて、常に精進を重ね休むことなく修行をしてきたのです。」

 この言葉を聞くと、弥勒菩薩を始め、虚空会に居る人たちは、より大きな疑念を持ち始めました。そしてその事について、弥勒菩薩が代表して釈迦に問いました。

「世尊は娑婆世界でこの人達を教化してきたと言いますが、世尊が出家してから四十余年という短い期間に、どうやってこの様な膨大な人数の菩薩達を教化してきたというのですか?またこの菩薩達はとても立派な姿をしており、世尊は彼等の事を弟子だと言いますが、それでは二十五歳の若者が、年老いて威厳のある人を指して、その老人は私の弟子であるという様なもので、とても信じる事が出来ません。これはどういう事なのでしょうか?」

 この弥勒菩薩の質問とは、この地涌の菩薩の姿を見た時に感じた事であり、これら菩薩が出現した事で、多くの人達の感じた大きな疑念でもあったのです。

(続く)


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