「親父へ
まったく困っちゃうよな。親父、5000円って言ったじゃん。
バイトしてお金ためてある程度欲しいもの買えるようになったけど、
まだこれだけは買わないでいる。
いつも身に付けているこの時計は俺のお守りなんだ。
親父は自分のことあんまり誇りに思わないかもしれないけど、
俺はずっとその背中をみて育ってきたから。
親父さ、不器用でまるで時計の短針みたいだよね。
どんどん進んでいく秒針と長針に何回も追い越されていく。
それでもひたむきに頑張る姿は、何倍も勇気もらえたんだ。
俺も何度、人に追い越されてもいい。でも自分の納得のいく
やり方で自分の人生を歩んでいくよ・・ 」
暑い夏の日差しは朝から、道路のアスファルトを照りつけ、
気温を上げる。その空気は体を動かしたいようで、徐々に体力を奪っていく。
「おい、もう少ししたら休憩だから、頑張れ。」
バイト先の田中さんが声をかけた。
「まだ休憩じゃないですか。わかりました。」
疲れた声にもうひと踏ん張りといった感じで木村が返事をした。
大地と木村の2人で顔を見合わせ額の汗をぬぐった。
時給800円の夏の短期バイトである。駅のアーケードの掃除。
思った以上に気温がジリジリと体力を奪っていく。
朝8時から、夕方4時までのバイトである。
「おーい、若いの。気をつけてがんばれ!!」
道行く人に声もかけられた。大学に入ってはじめてバイトをした。
始めは作業もおぼつかなかったが、仕事先の田中さんも気さくな人で、
学生とのコミュニケーションも楽しんでいる様子で
大地も木村も変に気を遣う心配もなかった。
休憩時間は思っている以上に長く取られた。
疲れているのは学生の僕らより、田中さんのほうに見えた。
「あっちいなぁ、それにしても。どうだ大学は楽しいか?木村と大地は何の学部に入っているんだ?」
「俺ら2人は社会福祉学部に入ってます。大学はずいぶんと自由で何していいかわかんなくなったりもするんですけど、楽しいとこですよ。」
人当たりのいい木村につられて、大地もこの仕事をやることにした。
大地も1人ではやる勇気がなかったが、
木村となら多少のトラブルがあっても大丈夫だとの思ってのことだった。
「ふう、いいな大学生。どうせバイトで稼いだお金は遊びに使うんだろ。
親になんか食べもんでも送ってやれ。きっと喜ぶぞ。」
「なんか水臭いですよ。俺なんか母の日、
父の日にプレゼントなんて贈ったことないですもん。
プレゼントは初任給でやりますって。」
隣で聞いていた大地もふと自分のことについて振り返ってみた。
中学、高校と部活に忙しくて、誕生日は祝うものの母の日、
父の日にプレゼントなんて贈ったことなかったな・・
大学に入った今年、大学生協で母の日、
父の日など何かフェアをやっていたのを思い出したが、
気がつけば終わっていた。ふと自分の時計に目をやった。
もらってからはずっと着けている。父からの初めてのプレゼントだった。
「来週から、本番での試験会場を意識して、教室の時計は外してやるから。各自が時計もってくるようにな。携帯電話での時計は禁止だからな。」
時計か・・・・昔、小学生の頃は付けていたけど、
今持ってないよな。大地は頭の中で考えていた。
受験も近づいてきて、毎月のように全国模試が行われているときだった。
まぁ、親父から使わなくなった時計借りればいいかな、大地は思っていた。
家に帰ると、哲に時計のことを相談した。
「あのさぁ、実は試験のときに、自分の時計もっていくみたいなんだけど、使ってない時計ってないかな。」
「使ってない時計か、俺の貸してやるか。」
「いいの、父さん。それあたしがプレゼントしたものじゃない。10万円もするものだよ。」
隣で話を聞いていた詩織がそのままではいけないと口を挟んだ。
「10万円なんて、とてもじゃないけど時計が心配でテストどころじゃないよ。
小学校のときに使っていたのはもう壊れちゃったからね。」
困った顔をしていると、哲が口を開いた。
「明日、休みだから見てくるぞ時計。どうだ大地も一緒に見に行くか?」
「みたいのは確かだけど、学校で自習する約束つけたから俺はいいよ。
親父のセンスに任せる。」
少しばかり残念な顔していた哲だが、
息子のためにいいのを見つけてきてやろうと決意がみなぎっている。
「あ、安いのでいいからね。ただ試験のときに使うくらいだし。
5000円くらいで良いよ。」
「はいよ、じゃあ大地が自習で頑張っている間に
母さんと2人で良いの見つけてくるからな。」
次の日、自習から帰ってくると急いで哲の元へと向かい、うきうきしながら、大地は聞いた。
「いい時計見つかった?」
「大地、ごめんな。お前のリクエスト聞いとくの忘れたよ。
良いのがあったんだけど、文字盤とか数字書いてあるやつと、
書いてないのとかアナログ、デジタルどっちがいい?」
「あ、なるほどね。俺は文字盤に数字が書いてないほうがいいよ。アナログのシン プルなほうが好きだな。」
買ってこなかった理由に大地は納得をしたようだった。
「了解。じゃあ、明日もう1度いってみてくるから。明日は日曜日だけど模試か?」
「いや、もう予定で希望者に数学の講習があるからそれに行ってくるよ。時計よろしくおねがい。」
外の暗さとは対照的に、家の電気のオレンジ色の明るさの中に
明るい声が弾んでいた。
まったく困っちゃうよな。親父、5000円って言ったじゃん。
バイトしてお金ためてある程度欲しいもの買えるようになったけど、
まだこれだけは買わないでいる。
いつも身に付けているこの時計は俺のお守りなんだ。
親父は自分のことあんまり誇りに思わないかもしれないけど、
俺はずっとその背中をみて育ってきたから。
親父さ、不器用でまるで時計の短針みたいだよね。
どんどん進んでいく秒針と長針に何回も追い越されていく。
それでもひたむきに頑張る姿は、何倍も勇気もらえたんだ。
俺も何度、人に追い越されてもいい。でも自分の納得のいく
やり方で自分の人生を歩んでいくよ・・ 」
暑い夏の日差しは朝から、道路のアスファルトを照りつけ、
気温を上げる。その空気は体を動かしたいようで、徐々に体力を奪っていく。
「おい、もう少ししたら休憩だから、頑張れ。」
バイト先の田中さんが声をかけた。
「まだ休憩じゃないですか。わかりました。」
疲れた声にもうひと踏ん張りといった感じで木村が返事をした。
大地と木村の2人で顔を見合わせ額の汗をぬぐった。
時給800円の夏の短期バイトである。駅のアーケードの掃除。
思った以上に気温がジリジリと体力を奪っていく。
朝8時から、夕方4時までのバイトである。
「おーい、若いの。気をつけてがんばれ!!」
道行く人に声もかけられた。大学に入ってはじめてバイトをした。
始めは作業もおぼつかなかったが、仕事先の田中さんも気さくな人で、
学生とのコミュニケーションも楽しんでいる様子で
大地も木村も変に気を遣う心配もなかった。
休憩時間は思っている以上に長く取られた。
疲れているのは学生の僕らより、田中さんのほうに見えた。
「あっちいなぁ、それにしても。どうだ大学は楽しいか?木村と大地は何の学部に入っているんだ?」
「俺ら2人は社会福祉学部に入ってます。大学はずいぶんと自由で何していいかわかんなくなったりもするんですけど、楽しいとこですよ。」
人当たりのいい木村につられて、大地もこの仕事をやることにした。
大地も1人ではやる勇気がなかったが、
木村となら多少のトラブルがあっても大丈夫だとの思ってのことだった。
「ふう、いいな大学生。どうせバイトで稼いだお金は遊びに使うんだろ。
親になんか食べもんでも送ってやれ。きっと喜ぶぞ。」
「なんか水臭いですよ。俺なんか母の日、
父の日にプレゼントなんて贈ったことないですもん。
プレゼントは初任給でやりますって。」
隣で聞いていた大地もふと自分のことについて振り返ってみた。
中学、高校と部活に忙しくて、誕生日は祝うものの母の日、
父の日にプレゼントなんて贈ったことなかったな・・
大学に入った今年、大学生協で母の日、
父の日など何かフェアをやっていたのを思い出したが、
気がつけば終わっていた。ふと自分の時計に目をやった。
もらってからはずっと着けている。父からの初めてのプレゼントだった。
「来週から、本番での試験会場を意識して、教室の時計は外してやるから。各自が時計もってくるようにな。携帯電話での時計は禁止だからな。」
時計か・・・・昔、小学生の頃は付けていたけど、
今持ってないよな。大地は頭の中で考えていた。
受験も近づいてきて、毎月のように全国模試が行われているときだった。
まぁ、親父から使わなくなった時計借りればいいかな、大地は思っていた。
家に帰ると、哲に時計のことを相談した。
「あのさぁ、実は試験のときに、自分の時計もっていくみたいなんだけど、使ってない時計ってないかな。」
「使ってない時計か、俺の貸してやるか。」
「いいの、父さん。それあたしがプレゼントしたものじゃない。10万円もするものだよ。」
隣で話を聞いていた詩織がそのままではいけないと口を挟んだ。
「10万円なんて、とてもじゃないけど時計が心配でテストどころじゃないよ。
小学校のときに使っていたのはもう壊れちゃったからね。」
困った顔をしていると、哲が口を開いた。
「明日、休みだから見てくるぞ時計。どうだ大地も一緒に見に行くか?」
「みたいのは確かだけど、学校で自習する約束つけたから俺はいいよ。
親父のセンスに任せる。」
少しばかり残念な顔していた哲だが、
息子のためにいいのを見つけてきてやろうと決意がみなぎっている。
「あ、安いのでいいからね。ただ試験のときに使うくらいだし。
5000円くらいで良いよ。」
「はいよ、じゃあ大地が自習で頑張っている間に
母さんと2人で良いの見つけてくるからな。」
次の日、自習から帰ってくると急いで哲の元へと向かい、うきうきしながら、大地は聞いた。
「いい時計見つかった?」
「大地、ごめんな。お前のリクエスト聞いとくの忘れたよ。
良いのがあったんだけど、文字盤とか数字書いてあるやつと、
書いてないのとかアナログ、デジタルどっちがいい?」
「あ、なるほどね。俺は文字盤に数字が書いてないほうがいいよ。アナログのシン プルなほうが好きだな。」
買ってこなかった理由に大地は納得をしたようだった。
「了解。じゃあ、明日もう1度いってみてくるから。明日は日曜日だけど模試か?」
「いや、もう予定で希望者に数学の講習があるからそれに行ってくるよ。時計よろしくおねがい。」
外の暗さとは対照的に、家の電気のオレンジ色の明るさの中に
明るい声が弾んでいた。
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