気の向くままに junne

不本意な時代の流れに迎合せず、
都合に合わせて阿らない生き方を善しとし
その様な人生を追及しています

(‘77)5月17日(火) #5 失敗した〜

2023年06月22日 | 日記・エッセイ・コラム
今度は砂浜から別のコースで、もとの林の横を抜けて戻ってみた。そして昨日に引き続き今日もお腹が減ったという事で、申し合わせた様に意見が一致。即、すぐ傍の食堂へ突入。何を食べたのだったのだろうか?ちょっと思い出せないけれど、この食事は有効な間合いであった。楽しくはしゃぎ回った一日の空腹を満たすべく安らぎの時。
「サァ、そろそろ行きますか」
「そうね、おばさん、ごちそうさま」
「ごちそうさま」

バス停に出てターミナルへ向かうバスの時刻表を見てみた。困った顔をしながら明美の方に振り返り言った。
「ああ…見てみて…」
「どうしたの?」
「やっちゃったぁ、大失敗」
「ええ…?ああ、これってもしかして、うん…そう、そんなァ。どうしよう、困ったわ…」
バスが無いのだった次に来るバスでは竹富丸に間に合わないのである。時刻は五時二十分。間に合わないどころか竹富丸は既に出航している筈であった。その後は六時のスクール船しか無いのであるが、バスが無い以上それも不可能。楽しみの極みから一転して不安の深みに立たされた明美を慰め、元気づける為に私は言った。
「平気平気、何とか間に合うようにしよう。来た道を歩いて戻りながらヒッチをしよう」
「ヒッチハイクかァ…。それもいいわね」
「そう、確かこっちの方角で良かった筈」
「本当?」
心配そうな目をして私を見ていた。
「うん、本当だってぇ。バスの事では忘れていたけれど、ここには何度も来ているから」
「そうなの?」
「うん、…でも、本当にいいのかなァ?」
「ええ?」
「ウソウソ、本当に、これでいいんだってば」
途中何台かすれ違う車を見たけれど後ろからからは来なかった。それでも冗談を言いながらも、何とか心の平静さを保ち続けようとしていた。
一台やって来た。すぐさま顔を見合わせ飛び跳ねる様に手を振り挙げた。しかし呆気なくその車を見送る光景に早変わり。手を挙げたまま。
「ああ…行っちゃった」
「乗せてくれたっていいのに…」
仕方なくまた歩き始めた。もう見えなくなってしまったその車の後を追い掛ける様に。
しかし、あまり悲観したものでもなかった。暫らく歩いているとまた一台やって来て、今度は止まってくれた。軽トラックだった。私達は後ろの荷台に飛び乗った。この車に乗っても間に合わないのを私は知っていたけれど、明美にとっては『これで竹富に帰れるかも知れない…』という期待の車だったかも知れない。その車の主はまだ若く、何処かの工事現場で働いているといった様相を呈した人で、とても良く注意をしながら運転してくれた。荷台の二人にはその事がはっきりと判った。
「ねえ、さっき行き違った人じゃない?」
「そうだっけ?」
「そうよ、きっと」
「戻って来てくれたのかなぁ?」
「わざわざ?まさかぁ。でも親切な人ね」
「うん、そうね。世の中まだまだ捨てたもんじゃないね」
「フフフ、そうね」
荷台の前の方では明美の拾ってきたヤドカリがカサカサと動いていた。来る時はバスの中から良く見えなかったという辺りの風景を、明美は改めて楽しんでいた。市内への一方の入口、新川(あらかわ)の当りで車は止った。私達は心から十分にお礼を言って別れ、ターミナルや波止場の在る方へ歩いた。

長いこの‘77年5月17日の日記はまだまだ続きます。今振り返っても一体いつ書いていたのか思い出せませんが、小さなメモ帳にその都度書いていたのだと思います。この頃はその様な習慣が身に付いていましたから。そして記憶力も良かったのかなぁ…と、思いたいです。寝る前には書き終えていましたから。今とは大違いです
で、#6 に続きます。

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