気の向くままに junne

不本意な時代の流れに迎合せず、
都合に合わせて阿らない生き方を善しとし
その様な人生を追及しています

(‘77) 5月17日 (火) #4 高峰荘のボート

2023年06月21日 | 日記・エッセイ・コラム
多分、この川平に関した私の想い出話しをしていた時だったと思う。少し前から二人の目の前に一艘のボートが見えていたのだけれど、そのボートが水辺に止まり一組のカップルが降りてきた。その男のほうが近寄り、黒々と日焼けした顔の中から白い歯をキラキラ光らせて言ってきた。
「良かったらどうですか?」
「エッ、何?」
「乗ってみますか?」
思わず明美と顔を見合わせた。
「どうしよう、乗せてもらう?」
明るい笑顔の中に明美は頷いた。
「いいんですか、本当に?」
と、彼に言いながらよくよく見てみると何処かで見た様な、乗った様な思い出の有るボートだった。「もしかしてあなた達、高峰荘(確かそんな名を言ったきがする)の人?」
「そうよ。どうして判ったの?」
彼女のほうが言った。
「やつぱりね。去年お世話になったんで、何となく覚えていたから」そう、確か去年の今頃来た時に一泊して乗った事があったのだ。しかしまさか明美と二人でボートに乗るなんて思ってもみない事だった。予定外のこの行動は明美にこの川平の湾内の海を見せてあげるのに都合の良い事ではあった。竹富では見る暇が無かったので、これが文字通り初めての沖縄・八重山の珊瑚の海であった。ただただ見るもの感じるもの全て初めての事に心を踊らせはしゃいで、嬉しさ楽しさに明美を見ていると、あの竹富に残してきた友達のほうには済まない…とは思うけれど、もっと明美にこの「最後に残された平和の楽園」を、十分に満足する迄教えてやりたくて堪らなくなっていた。
様々なな珊瑚にコバルトスズメやカクレクマノミを初めとする熱帯魚達。透き通った海の水と、優しい肌触りに髪を踊らす潮風。
「ねえ、そろそろ上がろうか?」「そうね、でもまだ見ていたいけど…」
「あの珊瑚を廻って、それからあそこへ戻ろうかぁ」
「いいわよ」
波打ち際に近付くと彼ら二人は砂浜に立って、ここだここだ…と言わんばかりにボートを付ける場所を示していた。
「どうもありがとう」
「ありがとう。おかげでとても楽しかったわ」
お礼を言った後、四人でボートを引き上げて押すのが一苦労だったけれど、明美と顔を見合わせ満身の力を込め押したのが、何故かとても爽やかだった。また軽くお礼やらこれから先の旅の行動について少し触れた後、互いの無事を祈りながら別れた。彼等が去って少し経ってから、私達もそろそろ戻ろうか…という事になった。ここでの写真も、『オテンバ娘の遠足スタイル』の心優しい情感が撮れている筈だ。写真は正直である筈だから。その人の心よりも…。





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