7.7. 再び泉屋で
本当に偶然だった。何を思い立ったのか昨日泉屋へ電話をしたら、毛利と須藤が戻っていた。そこで今日は休みをとって、早速泉屋へ出掛けた。月2回のポンポン船の点検日に当たり運休となっていたので、生まれて初めて乗るホバークラフトで竹富へ渡る事にした。
一時五十分頃、竹富に着いた。前回の時とは多少様相が変っていて、人数も23人と最高。毛利と須藤の二人はといえば、例に拠って女の娘の部屋で話しをしていた。大体のところ、私も夕食迄はそこで時を過ごした。途中、おばちゃんに呼ばれ冷珈琲を飲んでいたら須藤がやって来て、あの懐かしいオセロをやる事になった。そこへ今度はオヤジがやって来て話しが始まった。それで須藤は戻って行ったのだが、これがまた運が悪く、私の居ない女の娘の部屋ではパインを食べていたのであった。「呼んでくれればよかったのに」
と言ったら、女の娘の一人が、「だって、おじさんと話しをしていたんだもの」
と答えていた。
夜はいつもの通り泡盛での宴会を開く予定だったのだけれど、オヤジは急に何か用事が出来たらしく、十一時になる迄姿を見せなかった。そこで一度部屋に引き上げた後、私の隣の女の娘(パインの)二人の部屋へ顔を出した。毛利と須藤との三人で押し掛けて、五人の夜話会を開き、深夜一時半頃迄続けた。他所では判らないけど、ここ泉屋ではそんな事も出来た。
7.8. 一晩・二日 逢った途端に
サヨウナラ
朝になると、彼女達二人と須藤と私の四人で西桟橋迄行った。水着を身に着けていたのは私だけだったので、何故か少し気遅れしてしまった。泉屋に戻ると桟橋迄の車が出た後で、十時二十分のホバークラフトに間に合わないという焦りが出ていた。この時丁度午前十時。オヤジのバイクに女の娘二人と荷物を乗せた三人乗りを追い掛ける様に、私は汗だくになりながらのマラソンである。いろいろ考えてみたら、その方法が一番だと納得するしかなかった。そしてとにかく船着き場に着いた。しかしその船着き場にはまだホバーはその姿を現してはいなかった。『チョット〜、ねぇ〜、何の為にあんなに走ったのぉ〜』と思いながらも、完全に間に合っているこの事実。一歩間違えれば…とは思いながらの取り越し苦労に苦笑していた。
そんなホバーが間もなく波間に見えて来るようになると、思い思いに日陰に入っていた人々が乗船場所へと集まって来た。こんなに居たのかな…と思う程、それは湧いて出てくる様な感じであった。
十時三十七分に出航したホバーは八分の後、十時四十五分に石垣島の桟橋の一番外寄り、ホバー乗り場に接岸した。このホバークラフトの中には、同じく泉屋に泊まっていた伊藤という船橋(千葉県)から来ていた日航の男がいた。それで三人の為、八重山最後の余韻の様なひと時をと、喫茶ザボンに連れて行った。そこで初めて判る二人の女の娘の名前。静岡市から来ていた増田悦子と鮫島充。もう少し早く出逢えて名乗りあえる様になっていたら…と思った時には、二人のFlightの時間が余りにも迫りすぎていた。一時二十分、私達はザボンを出るとタクシーで石垣空港へと急いだ。
前回、六月末に続いてここ石垣空港からの見送りは二度目。二人は午後二時の便で空の彼方へと消えて行った。最後の一点となり消えて行くその瞬間迄、私の視線は彼女達を追い続けていた。いつの場合でもそうだけれど、旅をしていると、やっと仲良くなれたと思った時に、名残りを惜しむ間も無くすぐに別れの時がやって来る。それが辛い。この回避不可能な辛さに救いはないものだろうか…?
この美崎町に戻って来た私と伊藤は「琥珀」でアイス・クリームを食べ、一服しながら日航での裏話しの様なものを聞いていた。
外に出て本を買った私は、今夜の那覇行きの船に乗る彼に乗船券売り場のあるビルと港のある場所を教え別れた。たった一晩・二日ではあったけれど、今度の旅に於いては(今のところ)悦子が一番樂しく過ごせた旅仲間であった。と言うか、気楽に話しが出来た…と思った。いやいや、まだまだこれから先も出逢いを重ねる度に同じ様な事を思い続けるのであろう。まさに出逢いの嬉しさである。別れを思わなければ、これ程旅が素敵に思える事はない。
そうだ、それ程無かった話しの時間の中で悦子が、
「何か欲しいものって有る? 手に入るものなら、送ってあげるわよ。遠慮しないで言ってみて」「急にそう言われてもねぇ…ああ、そうだ、本が欲しい…けど、ちょっと難しいかな…」
「本かぁ、ねぇ、どんな本がいいの?」
「うん、音楽に関したもの。例えばカントリー&ウエスタンに付いてのものだったら言う事ないけど、そんなの判んないよね」
「そうかぁ、ジュンは音楽好きだものね」
「ネ、難しいでしょ」
「ううん、何とか探してみるわ」「無理しないでね」
「いいって事よ、任せておいて」
とか言っていたけれど、期待半分と云う事にしておいた方がいいのだろうなァ…。
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