六時三十分を少し回った頃だっただろうか、私達は外に出て夜の市内見物を洒落こもうと云う事で、外に出た。市場通りを抜けたり、そろそろ賑わい始めている美崎町を歩き、去年の暮れに初めて目にした、まだ新しいブルーシールの店に入りアイスクリームを食べた。これは明美からの提案でもあり要求でもあった。二人共バニラとチョコの二色のものを注文した。いや、三色だったかな?そんな事はともかくどうでもいい事だった。ここでの新しい明美の発見の方が余程私には意義がある。それはつまり、明美が音楽に対して深い興味を持っていた、と云う事だ。聞き手がそれらしい反応を示せば、語り掛ける方はノリにノルものだ。あっという間に、しかし実は長い時間なのだけれど、私はアメリカ音楽二百年の歴史を参考に、ブルース音楽とカントリー音楽の大まかな歴史を滔々と述べてしまったのだった。今迄あれ程熱心に、興味と共に耳を傾けてくれた者など存在しなかった。ましてや女の娘では…。
「音楽とか芸術とかやっている人って、私、尊敬しちゃうの」
ちょっと大袈裟だとは思ったけれど、まあ、それはそれで、その様に思って貰えたのは嬉しい事だった。この言葉に私は満足感に似た様なものを覚えた。
そしてこの時、明美達のここ迄来る経緯を聞いていて、西表島行きが決まった。
朝から晩迄今日は遊び呆けていたので、空きっ腹を抱え合っていた。今日はちょっと贅沢をしてみようと言う事で、何処か手頃な店はないものかと、すっかり暗くなった美崎町を歩いてみた。アレでもないコレでもないと迷い始め、焼き肉を食べよう…と、東京亭の前迄行ったのだけれど何故か急に気が変り、鰻料理の金田中に行った。
「もう本当にここでいいね、ウナギで」
「ええ、いいわよ」
何軒目での決定であったのだろうか、店が見え始めてから戸を開ける迄がお笑いだった。互いにまた「やめよう」と言い出すのではないかと思っていたのだった。そして同時に、もうこれ以上探し歩く事にはうんざりしていて、半ばヤケになって「もう何でもいい」という気にさえなっていたのだ。
そんな事もあったけど、とにかく中に入った。入口のすぐ右側の通りに面した座敷テーブルに向かい合わせに座った。注文したのは二人共うな丼。そして出来上がって運ばれてきたそのうな丼を見て二人共笑ってしまった。大盛りを注文したのではないのに、明らかに大盛り。それは空腹の底をついた二人にもちょっと食べきれないのでは…と思える程のものだった。
帰り道、昔ちょっと知っていた「ダルマっ子」と云う店に入り軽く呑んだ。少ししか飲んではいないのに、夜風の中で不思議と気分が良かった。二人共最高の程酔い加減だった。
部屋に戻ってからは、長かった今日の一日を話し合っていた。もう夜もだいぶ更けていた。
「そろそろ寝ますか?」
「そうね。その前にお風呂に入りたいけれど、ここはシャワーしか無いんでしょ?」
「うん」
「まぁ、いいかぁ。ちょっと足を洗ってくるね」
なんとまあ、シャワーから出て来たのは冷たい水ばかり。『湯』のプレートは名ばかり。それでも何とか身体を洗い流し部屋に戻ると、明美はちゃんと布団を敷いて待っていた。
「サァ、寝ますか」
「うん…」
私がまた煙草を吹かしている間に、明美は先に布団の中に潜り込んだ。
…本当に長い一日だった様に感じる…。
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