「お金」で読む日本史 (本郷和人監修 祥伝社)③
徳川吉宗の朝ごはんは200円で庶民の御飯より安かったらしい。このほかにも様々倹約しさらに新しい政策が当たったこともあり幕府の財政は一時的ながら好転した。倹約の最たるものは大奥をリストラすることであったらしい。大奥の費用は国家財政のかなり大きな部分を占めていたという。
立派なことをしたようで徳川幕府の延命をしたのに過ぎない気がする。延命が良いことだとは一概に言えないのは、ありとキリギリス(原題では蝉になってるそうだけど)でありがキリギリスに「あんた滅ぶべき時に滅ぶべきだ。」と冷たく言い放ったことからもわかるように、滅びることで次のものが出現する。
もし吉宗さんが毎朝十万円くらいの御飯を食べ、大奥にはもっと贅沢をせよと命じたらしばらくの間大バブルが発生してそのあとフランス革命並みの大混乱が起き新しい政権が起こっただろう。それによって、産業革命に乗り遅れることなく黒船にびっくりすることが無かったかもしれない、いらざる遠回りをさせられることなく近代国家になることができたんじゃないか。イギリスに負けずに世界の海に覇をとなえることだって出来たかもしれない。
しかも、朝十万円なら昼や夜は五十万円百万円かもしれない。そうすると料理人は料理の腕を磨いて和食は中国フランストルコに次ぐ名物料理になったかもしれない。王様が贅沢すると後の世にはいいことも起こりそうである。大奥でキモノを買い付けるバブルが起こると着物屋さんが儲かる。キモノやの息子のなかには道楽をできる立場になるから遊びまわるのが出るかもしれないが、遊びながら独特の美意識を育てることもできる。尾形光琳や乾山のような凄いのがその息子の中から出てきて国宝級の美術品が一杯生まれたかもしれん。
桃山時代の唐獅子を描いた屏風でも、日光の猫の彫刻でも、二条城の障壁画でも、なにかパトロンに媚びた気配が見て取れないこともない。しかし大奥のヒトが贅沢をしてくれればその金がまわりまわってパトロンの存在を感じさせない一級の美術品を、生むことになっただろう。どうも千利休さんがしみったれたことを言ったり、鴨長明さんがけち臭いことを本に書いたりしただけではないようだ。吉宗さんの倹約の精神が現在の日本人の心に様々な影響があるのではないか。それを無条件に良いことだとは私は思わない。