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『孟子』巻二梁惠王章句下第十六節

2016-06-13 10:36:04 | 漢文解読
                        第十六節
孟子が齊の宣王にお目にかかって言った、
「大きな宮殿をお造りになろうと思われたら、必ず大工の棟梁に命じてそれに見合う大木を探させるでしょう。棟梁が期待通りの大木を入手すれば、王様はお喜びになり、これなら大きな宮殿を造るのに適していると思われます。ところが棟梁が、この巨木を削って小さくすれば、王様はお怒りになられ、これでは大きな宮殿を造るのに適さないとお思いになられます。そこで、志のある人が、幼いころから学問をし、一人前になったら学んだことを実践しようと思っていると、王様は、お前の学んだことはしばらく捨て置いて、私の考えに従えと仰せになられると、どういうことになりましょうか。今、ここにまだ磨いていない玉が有れば、それがいかに高価であっても、自分で手を付けずに、本職の玉造りに磨かせるでしょう。ところが、国家を治めるということになりますと、お前の学んだことは、しばらく捨て置いて、私の考えに従えとおっしゃる。これでは、本職の玉造に玉の磨き方を教えるのと、どこが違うのでしょうか。」

孟子見齊宣王曰、為巨室、則必使工師求大木。工師得大木、則王喜、以為能勝其任也。匠人斲而小之、則王怒、以為不勝其任矣。夫人幼而學之、壯而欲行之。王曰、姑舍女所學而從我、則何如。今有璞玉於此、雖萬鎰、必使玉人彫琢之。至於治國家、則曰、姑舍女所學而從我、則何以異於教玉人彫琢玉哉。

孟子、齊の宣王に見えて曰く、「巨室を為らば、則ち必ず工師をして大木を求めしめん。工師、大木を得ば、則ち王は喜びて、以て能く其の任に勝うと為さん。匠人、斲(けずる)りて之を小にせば、則ち王は怒りて、以て其の任に勝えずと為さん。夫れ人、幼にして之を學び、壯にして之を行わんと欲す。王曰く、『姑(しばらく)く女(なんじ)の學ぶ所を舎きて我に從え。』則ち何如。今此に璞(ハク)玉有らんに、萬鎰と雖も、必ず玉人をして之を彫琢せしめん。國家を治むるに至りては、則ち曰く、『姑く女の學ぶ所を舎きて我に從え。』則ち何を以て玉人に玉を彫琢することを教うるに異ならんや。」

<語釈>
○「以為能勝其任也」、「任」について、工師の任に解して、職務を達成することのできる優れた工師とする説と、木の任に解して、この巨木なら大きな宮殿を造るのに適しているとする説がある。下文の「斲而小之」の句からして、木の任と解するのが妥当だと思う。○「璞玉」、あらたま、まだ磨いていない玉。○「萬鎰」、鎰(イツ)は金銭の単位で、二十兩であるが、「萬鎰」で趙注は衆多の意に解し、朱子は高価の意に解している。今は朱子説が一般的なのでそれに従っておく。

<解説>
大きな宮殿を造るには、それに見合う大木が必要で、それを小さく切ってしまえば意味がない。それと同じで國を治めるにも、せっかく大なる賢者がいてるのに、小にしてそれを無視して自分の考えに従わせるのは、素人が本職に教えるのと同じで、慎むべきことであり、専門家に頼る必要性を説いている。これは國の政治に、孟子を含めて儒者を用いることの必要性を述べているのではないかと思う。