平成27年9月1日 発行
著者は1979年、ロンドン生まれ。イギリス人の父とスウェーデン人の母の間に生まれる。2001年、ケンブリッジ大学英文学科を首席で卒業。在学時代から映画・テレビドラマの脚本を手掛ける。処女作は「チャイルド44」。
上巻は通勤電車の中や会社の休み時間に読んでいて読み終えるのに時間がかかりました。下巻は佳境に入ったこともあり休日の午後、休憩をはさんで一気に3時間強で読んでしまいました。久しぶりの速読です。読ませてくれる小説でした。ストーリーの中にストーリーが、その中に別のストーリーがある。下巻は一本につながりかけた話がこれでもかこれでもかと変わっていきます。見事です。近親相姦を扱ったクライム・サスペンスです。
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ロンドンで庭園デザイナーをしている僕(ダニエル)にある日、スウェーデンで暮らす父から電話が入る。お母さんがロンドンに向かっている。彼女は精神を病んでしまっている。彼女の言う事を一切信じるなと。母からも電話が入る。ロンドンに向かっている。父は変わってしまった。父は私を貶めようとしている。父の言う事は一切信じるなと。
事業をたたみ、母の故郷のスェーデンで農場を買い、老後を過ごすために移住した父と母は穏やかな暮らしをしているものばかりと思っていた僕(ダニエル)は、この日を挟んで自分の知らない母のつらい過去を知ることになる、、、という話。
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日本では福祉政策の先進国だと思われているスェーデンですが極東に住む我々からすれば良く知らない国でもあります。「チャイルド44」を書いた著者がスェーデンを題材に取り上げたのは、自分の母の故郷だと言う理由からだけでは無いはず。欧州の人には分かるそれなりの理由があるのでしょう。
読み終えてもし"湊かなえ"がこの本の作者なら、もっとメリハリのある、読後に毒が残る書き方をしていたはずだと思いました。著者はそう言う風にも書けたのでしょうが、そうはせず綺麗に終わらせています。これは母へ対する愛情と優しさだと思いました。
(2023年9月 西宮図書館)