舟を編む | |
2013年の邦画。三浦しをんの小説が原作。監督・石井裕也、脚本・渡辺謙作。主演は松田龍平、宮崎あおい、オダギリジョー、小林薫、加藤剛、渡辺美佐子、黒木華、鶴見辰吾。
時代設定は1995年から2010年。舞台は玄武書房という出版社。
松田龍平は出版社の営業部員。大学で言語学をおさめたが配属されたのは営業。うだつが上がらない日々を過ごしていた。辞書編集部のベテラン編集者の小林薫は妻の介護のため近く退職する。代わりの部員を探すが地味な辞書編集部員のなり手はいない。辞書編集部員のオダギリジョーが松田龍平の噂を小林薫にしたところ、何か感じるところがあったのか小林薫はオダギリジョーを引き連れて松田龍平に会いに行く。「右」を言葉で説明してみろ小林から言われた松田龍平は方角を使って説明し小林薫のお眼鏡に叶う。営業部でも厄介者が片付くと辞書編集部に転属となる。
この映画で選んだ食事の場面は、松田龍平のパートナーとなる宮崎あおいが料理人ということもあり、随所にそれに関する場面が出てきてとても迷い、五箇所になってしまいました。
最初は松田龍平が渡辺美佐子から晩飯をご馳走になる場面。渡辺美佐子は松田龍平が住むアパートの大家。営業部から辞書編集部に転属したばかりの松田龍平の元気が無いことを、と言っても松田龍平はいつも元気は無いが、心配した渡辺が様子を聞くために松田龍平を晩飯に誘う。
松田龍平は言うのだ、大家さんとは10年も付き合っているから気心が知れていて会話も出来るが、配属されたばかりの辞書編集部では誰が何を考えているのか分からないと。辞書編集の仕事は自分に合っていると思うが、これからどうしていいのか分からないと。
渡辺は何をバカなと返す。辞書編集という一生を捧げて良いと思う仕事に若くして巡り会えた松田は幸せ者だと。そして人は分からないから楽しいのだと。分からなければ自分から声をかけて分かり合おうとすれば良いのだと。辞書は言葉を扱う。それを作る仕事に携わっていて言葉を怖がってどうするのだと。
もう一つは渡辺が宮崎あおいが作った煮物の鍋を持って松田の部屋を訪れる場面。宮崎あおいは渡辺の孫。京都で日本料理の板前修行を終え東京に戻ってきた。松田は宮崎に一目惚れ。渡辺の配慮で松田は宮崎のお供で合羽橋に調理道具を買いに行くことになる。
三つ目はとても気に入っている場面。小林薫の送別会の会場。いつも行っていた馴染みの居酒屋で部員五人のささやかな送別会。私は自分の時もこういうのが良いと思っている。
四つ目は黒木華の歓迎会の場面。先程の居酒屋は松田の歓迎会にも出てきたが、ここは宮崎あおいの店。時はたち修行中の身だった宮崎は店を持つまでになっていた。加藤剛も小林薫(妻の介護を終えて編集部に復帰)も当初は黒々としていた髪の毛はすっかり白くなった。黒木華は女性向けファッション誌からの転属。佳境に入った辞書編集部の増員。当初地味な辞書編集という仕事に馴染めなかった。この場でもビールも日本酒も受け付けない人物として描かれていて、シャンパンを頼む。営業部に転属になっていたオダギリジョーから昔話を聞いた頃から吹っ切れて一人前の辞書編集部員に変わって行く。ビールも日本酒も飲めるようになった姿が映画の最後あたりに出てくる。
最後は加藤剛の葬儀の後の場面。加藤は辞書監修の責任者。大渡海という辞書作りに小林と共に半生を捧げた人物。松田にも大きな影響を与えた。その加藤は辞書の完成を待たず他界する。自宅に帰り憮然としていた松田に妻の宮崎は蕎麦を振る舞う。とても静かな場面。窓の外は雪。
蕎麦をすすりながら松田は悲しみで涙を流す。宮崎はそっとその背中をさする。辞書編集部に転属になったばかりの頃、憮然とはどういう様子かという問いが松田とオダギリジョーに出される場面があった。憮然とは自分の力が及ばず失望、落胆して表情の無い様。松田は宮崎の前でその様を崩す。
この投稿が平成最後の投稿になると思います。