やまと絵
受け継がれる王朝の美
2023年10月11日〜12月3日
東京国立博物館
金曜日の夜間開館時間帯、第4期を訪問する。
【本展の構成】
序章 伝統と革新 -やまと絵の変遷 -
第1章 やまと絵の成立 - 平安時代 -
第1節 やまと絵の成立と王朝文芸
第2節 王朝貴族の美意識
第3節 四大絵巻と院政期の絵巻
第2章 やまと絵の新様 - 鎌倉時代 -
第1節 写実と理想のかたち
第2節 王朝追慕の美術
第3節 鎌倉絵巻の多様な展開
第3章 やまと絵の成熟 - 南北朝・室町時代 -
第1節 きらめきのかたち
第2節 南北朝・室町時代の文芸と美術
第3節 和漢の混交と融合
第4章 宮廷絵所の系譜
終章 やまと絵と四季 - 受け継がれる王朝の美 -
【会期区分】
1期:10月11日〜10月22日
2期:10月24日〜11月5日
3期:11月7日〜11月19日
4期:11月21日〜12月3日
第4期限りの出品作の数は多くないから、18時の入館から閉館時刻の20時まで2時間あれば充分に鑑賞できるだろうと見込む。
ところが、第4期限りの出品作は見応えがあるし、第3期から継続展示のお気に入り作品には見入ってしまうし、夜間だからといって空いているわけではないので相応に鑑賞待ち列に並ばなければいけないし。
で、第1会場を回り終えた時点で既に残り30分。
で、第2会場は断念し、第1会場に専心することとする。
以下、主に見たもの。
この屏風の前から立ち去るのは難しい。
国宝《日月四季山水図屏風》
室町時代15世紀
大阪・金剛寺 3・4期
日、荒海、緑の山、樹木、月、白い山、滝。
かたち、構成、色彩。
すべてが勢いであふれている。
何度でも見たい、六曲一双の国宝屏風。
三大装飾経の集結。見事な装飾。
国宝《久能寺経「随喜功徳品 第十八」》
所蔵者表記なし 4期
✳︎3期は「薬草喩品 第五」の展示。
国宝《平家納経「薬王菩薩本事品 第二十三」》
広島・厳島神社 3・4期
✳︎1・2期は「分別功徳品 第十七」の展示。
国宝《慈光寺経「妙荘厳王本事品 第二十七」》
埼玉・慈光寺 3・4期
特に第4期登場の国宝《久能寺経「随喜功徳品 第十八」》に感嘆。
紫色でグラデーションをつけた紙に、ふんだんの金銀の切箔を散らし、汀の葦、蓮が描かれる。ここが極楽浄土だと言われたら、信じそう。
毎期のお目当て、第1章第3節「四大絵巻と院政期の絵巻」。
第4期の新登場は、次のとおり。
国宝《源氏物語絵巻「夕霧」》
五島美術館 4期
国宝《信貴山縁起絵巻「尼公巻」》
奈良・朝護孫子寺 4期
✳︎1423.0cmを一挙公開。
✳︎1・2期は「飛倉巻」、3期は「延喜加持巻」の展示。
重文《葉月物語絵巻「第五段」》
徳川美術館 4期
✳︎3期は「第一段」の展示。
国宝《目無経(白描絵料紙金光明経巻第三)》
京都国立博物館 4期
国宝《鳥獣戯画「丁巻」》
京都・高山寺 4期
✳︎公開は前半部分(19紙のうち第1紙途中〜7紙)
✳︎1期は甲巻、2期は乙巻、3期は丙巻を展示。
国宝《信貴山縁起絵巻》は、信貴山朝護孫子寺の開祖・命蓮をめぐる物語であるが、「飛倉巻」「延喜加持巻」の超能力系物語よりも、「尼公巻」の弟・命蓮を姉が探す物語のほうを好ましく感じる。
東大寺・大仏殿における尼公の六変化(異時同図法)もおもしろい(この次にも、同じ大きさ・タッチの、信貴山に向かう途上の尼公が2回登場する)。
加えて、その前の、東大寺に辿り着くまでの旅路での尼公と庶民たちとのふれあいシーンの数々が魅力的。
命蓮と再会した最後の場面、今後、弟とともに、その指導を受けつつ真面目かつ質素に暮らしていくのだろうと想像させられる。
初見の国宝《目無経》に驚き。
「未完成の、何らかの物語絵の下絵と考えられる白描絵数種を順不同に継ぎ、雲母引きを施した上に『金光明経』巻第三を書写した作品」。
「目無経」と呼ばれるのは、下絵の人物に目鼻が描かれていないためとのことだが、確かに真っ白な顔。
と思っていたら、巻の末尾に登場する人物がただ一人、目鼻口眉まですべてが普通に描かれている。何か意味があるのだろうか。
鎌倉時代、「似絵」の描法による天皇の肖像3点。
重文《後白河天皇像》
京都・妙法院 4期
重文《後宇多天皇像》
京都・大覚寺 3・4期
国宝《花園天皇像》
京都・長福寺 3・4期
第4期限りの重文《後白河天皇像》は、サイズが大きく、人物もどっしりとし、背後に花鳥が描かれた障子と屏風の一部もあり、格調を強く感じさせる。
その状態はよろしくないので、細部の描写は見えにくいが、「目尻の下がった眼の形や皺、ふくよかで堂々とした顔の形、やや小ぶりに描かれる口元」のうち、「皺」を除いてはなんとか確認する。
国宝《花園天皇像》は、おおらかな感じのする描線が好ましい。画像の真正性を保証する墨書を本人がしたためているという。
第2期の神護寺三像と第3・4期の天皇の肖像4点、代表作により、鎌倉時代の似絵の魅力を初めて知る。
第1会場の「トリ」2点。
重文《山崎架橋図》
和泉市久保惣記念美術館、4期
淀川を挟んで、宝積寺と石清水八幡宮が鎮座する男山が描かれる。架橋工事の場面と完成した山崎橋が描かれているのも興味深い。
国宝《那智瀧図》
根津美術館、4期
縦長画面に真っ直ぐに流れ落ちる滝の白さの厳かさ。
滝壺で飛沫が上がり、やがて川となって画面右下へ流れゆく。
結局、第1期から第4期まで皆勤。
展示作品は質量ともに圧倒的、実物で日本美術史を学べる贅沢な展覧会。
展示室内は熱心な鑑賞者で賑わっているが、チケットの入手に難儀するとか、入館待ち列に並ぶということは一切なく、思いどおりに訪問できたのもありがたいこと。
これほどの満足を経験してしまうと、今後の東博の特別展が物足りなく感じる懸念も。