東京でカラヴァッジョ 日記

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1971年のカラヴァッジョ

2017年08月01日 | カラヴァッジョ
ファブリ世界名画集12
カラヴァッジョ
平凡社版
若桑みどり
 
 
   1971年に刊行されたカラヴァッジョ画集。B4版、24p、定価300円。当時の芸術新潮の価格は420円である。
 
 
   カラヴァッジョ生誕400年記念の出版と思ってしまうが、偶然の一致であるようで、当時は、生年は1573年と考えられていた。
 
 
   原色・大判で掲載されている作品は、表紙を含めて14点、白黒・小判が3点である。
 
 
   うち1点、現在では画家作とは考えられていない作品も含まれている。
 
 
《リュートを奏でる人》
110×81cm
ミュンヘン国立美術館
 
   1920年、ロンギ教授が新作として発表。1592年から95年頃、すなわち〈聖マタイのお召し〉と同時代のもので、光を帯びた色彩の繊細な震えは〈マタイ〉と共通する。これよりも初期の半身像の平坦な明るい光に対して、ロンギ教授はここにヴェルメールにいたる明暗様式の最も古い源泉を発見している。傷つきやすいまなざしの若者は、ミラノのスフォルツェスコ城にあるロットの青年像に生き写しである。
 
 
 
   書籍では、左の頁に本作品が、右の頁に《聖マタイのお召し》が配置されている。
 
 
 
   ロットの作品って、これかなあ。
 
 
 
《本を持つ若者の肖像》
1526年頃
34.5×27.5cm
ミラノ、スフォルツェスコ城市立美術館
 
 
 
   伝説の1951年ミラノのカラヴァッジョ回顧展では、帰属作として出品された本作品。
   アルテ・ピナコテークHPで確認すると、caravaggioで11点の作品がヒットするが、追随者作品あるいはコピー作品ばかりのなか、唯一《リュートを奏でる人》が「caravaggio(?)」と表記されている。サイズが96.6×78.6cmと画集の記載と異なる。ひょっとすると画集とは別作品?
 
 
 
   さて、本画集に掲載の17点は、1点を除き、ローマ時代の初期あるいはブレイク後の作品である。
 
 
   殺人を犯してローマから逃亡して以降の作品は、メッシーナ国立美術館《羊飼いの礼拝》ただ1点のみが掲載されている。
 
 

   なお、ボルゲーゼ美術館《ダビデとゴリアテ》は、制作時期がローマ時代の1605-06年として、掲載されている。

 
 
 
   以上に記載したようなことは、原著であるイタリア語版そのままの内容で、日本側の著者の裁量はほぼなかった、ということなのかな。
 
 
 
 
   本画集に図版掲載の17点は、次のとおりである。
 
【原色・大判】13点
 
《若きバッカス》
フィレンツェ、ウフィツィ美術館
 
《エジプトへの逃走中の休息》
ローマ、ドーリア美術館
 
《果物かご》
ミラノ、アンブロジアーナ美術館
 
《リュートを奏でる人》
ミュンヘン国立美術館
 
《聖マタイのお召し》
ローマ、サン・ルイジ・デイ・フランチェージ寺
 
《聖マタイの殉教》
ローマ、サン・ルイジ・デイ・フランチェージ寺
 
《聖パウロの改宗》
ローマ、サンタ・マリア・デル・ポポロ寺
 
《キリストの埋葬》
ローマ、ヴァティカノ絵画館
 
《巡礼者の聖母》
ローマ、サン・タゴスティーノ寺
 
《ダビデとゴリアテ》
ローマ、ボルゲーゼ美術館
 
《聖母の死》
パリ、ルーヴル美術館
 
《羊飼いの礼拝》
メッシーナ国立美術館
 
 
【表紙・原色】1点
 
《聖女マッダレーナの改心》
ローマ、ドーリア美術館
 
 
【白黒・小判】3点
 
《メドゥーサの首》
フィレンツェ、ウフィツィ美術館
 
《合奏》
メトロポリタン美術館
 
《女占い師》
パリ、ルーヴル美術館
 


4 コメント

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ミュンヘンのリュート奏者 (むろさん)
2017-08-01 23:11:24
ミュンヘン アルテピナコテークのリュート奏者ですが、1980年代以降に出された本ではカラヴァッジョの真作としているものはないようです。(美術出版社世界の巨匠シリーズ A.モアール著、若桑訳、ミア・チノッティ著 岩波 森田訳、Catherine Puglisi著 PHAIDON、ゼバスティアン・シュッツ著 TASHENなど)
手持ちの本で図版が載っていたものは、Rizzoliのカタログシリーズ「カラヴァッジョ」の英語版(M. Kitson)、仏語版(A.O.Chiesa)ともに「ほとんどの権威者から疑問視されている作品」となっています。国内の本では若桑みどり1978集英社世界美術全集がカラー図版を掲載していますが、「カラヴァッジョ作品からのコピーと考えられる作品」に分類されていて、解説文では「ロンギは絶賛しているが、L.ヴェントゥリやアルガンは到底カラヴァッジョ的ではないと考え、ジュリアンは表情が俗っぽいと非難している。私はひと目見て、この顔はカラヴァッジョのものではないと感じている。(以下略)」とあります。平凡社ファブリの解説は若桑さんの意見ではないようです。
サイズとしては、上記のRizzoli 、集英社版ともに110×81cmとなっているので、アルテピナコテークのHPの数値が誤り?でしょうか。
なお、モアールの世界の巨匠シリーズ「カラヴァッジョ」1984では、ロットの「本を持つ少年」について、「カラヴァッジョはロレンツォ・ロットの肖像画における、人間の性格の中まで見透すような内面的な光線も発見した。彼はベルガモにあったロットの「本を持つ少年」なども目にしたであろう」とあります。ロンギ以外の研究者もカラヴァッジョとロットの絵の関連を考えているようです。
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Re:ミュンヘンのリュート奏者 ()
2017-08-02 21:19:26
むろさん様

コメントありがとうございます。

ミュンヘンのリュート奏者は、カラヴァッジョ作ではないと若桑氏は考えられていた、ということですね。
平凡社ファブリは、1頁分の画家解説のみ若桑氏の執筆で、それ以外はイタリア語の原著の翻訳であるらしい、と理解しました。

また、改めて確認していると、掲載作品がほぼローマ時代のものとなっているのは、原著のカラヴァッジョが2冊構成であるのに対し、日本語版は1冊であることによるものらしいと(原著を見ていないので確実ではないですが)。

1978年の集英社世界美術全集も、機会があれば見たいと思います。

詳細な情報をご提供いただき、ありがとうございます。
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美術全集のこと 他 (むろさん)
2017-08-04 22:46:36
ミュンヘンのリュート奏者について、ロンギの文章を日本語で読める本がありました。岡田温司編「カラヴァッジョ鑑」(2001 人文書院)のP452に1952年のロンギの「カラヴァッジョ」の抄訳が載っています。ロンギは闇の背景から浮かび上がるこの絵を賞賛していますが、訳者(岡田)の注釈では「現在では匿名のカラヴァッジェスコの作」としています。

ファブリ伊語版のカラヴァッジョは持っていませんが、ジオットでは伊語版2冊組みと日本語版を持っているので比べてみました。確かに日本語版では図版を選んで掲載しています。そして採用されなかった図版の方が他の本にあまり出ていなくて価値があるような気がします(例えばボローニャの聖母子)。日本語版では有名作品を選ぶので、これでは日本で出されるどの美術全集も似たりよったりということになってしまいます。
ファブリのこのシリーズは、自分の興味のある画家については現地へ行ったらなるべく買うようにしていました。クリヴェッリ、マソリーノ、ポライゥオーロ、ペルジーノ、シニョレリ、ゴッツォーリ、カスターニョなど、イタリア語は読めませんが現地に行く時の参考として役に立っています。

集英社の世界美術全集は最初に大判が出て、翌年に愛蔵版(ヴァンタン)が出ました。大判を買ったのはボッティチェリだけで、あとは安価な愛蔵版で済ませています。図書館で読むか古書店やヤフオクで安く手に入ると思います。私がお勧めする美術全集は同じ集英社から日本語版が出ていたRizzoliのカタログレゾネのシリーズです。(残念ながらカラヴァッジョは日本語版は出ていません。)カラヴァッジョについては上に書いゼバスティアン・シュッツ著TASHENの大型本以上の(日本語で読める)カタログレゾネはないと思います(高価ですが)。また、評論社のカラー版世界の巨匠というシリーズの1冊(1980年)もなかなか面白い本です。恍惚のマグダラのマリアだけで5点の模写の写真が掲載されています。なお、最近日本とフランスの美術全集の歴史についての本が出版されていますので、参考になるかと思います。
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Re:美術全集のこと 他 ()
2017-08-05 21:31:23
むろさん様

情報提供ありがとうございます。

カラヴァッジョ関係で持っている書籍は、宮下規久朗氏、石鍋真澄氏の著書、東京書籍と西村書店のシリーズもの、日本の2回の回顧展図録、そして図版を眺めるだけの海外の展覧会図録を少し、程度です。

岡田温司編「カラヴァッジョ鑑」(ロングセラーですね)、ゼバスティアン・シュッツェ著TASHENの大型本(高価ですねえ)、三元社刊「日仏「美術全集」史」とも、気になっていましたが、購入(または借り出し)には至っていません。あと、チノッティ著の岩波書店の本も。 

まずは、集英社の世界美術全集を確認するつもりです。

なお、イタリアルネサンスの画集では、東京書籍刊「イタリア・ルネサンスの巨匠たち」シリーズを集めてました。カラヴァッジョを含む9割ほど+日本語版がないペルジーノとピントリッキオを外国語版で。カラー図版だし、各画家にどんな作品があるか確認するのに重宝してました。今はネットが便利ですけど。
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