アルチンボルド展
2017年6月20日~9月24日
国立西洋美術館
アルチンボルド展には出品されていない作品2点について記載する。
アルチンボルド
《ウェルトゥムヌスとしての皇帝ルドルフ2世像》
1591年、油彩・板
スコークロステル城、スウェーデン
宮廷画家を辞して故郷ミラノに戻ったアルチンボルドが、皇帝のために制作した作品。
皇帝を、季節の移り変わりをつかさどるローマの神ウェルトゥムヌスになぞらえている。
60種類にも及ぶ四季全般・世界中の草花・果物・野菜により形作られ、正面向きにすることで威厳さを醸しだした肖像により、世界を統治する皇帝を讃えている。
アルチンボルドの最晩年における最高傑作とも言われる。
本作品は、 2009年のBunkamuraミュージアム「奇想の王国 だまし絵展」で来日している。私も見ているが、それほど惹かれることはなかった。2014年のBunkamuraミュージアム「だまし絵2 進化するだまし絵」展で来日した《司書》も同じ。
アルチンボルド作品は、「だまし絵」の文脈で見るよりも、「生きた時代や環境、彼の人生、彼の作品の歴史的意義」、「彼自身のコンテクストのなか」でこそ、より輝いて見えるのだろう。
本作品は、ありがたいことに、2017-18年にかけて別の展覧会で来日することとなっている。
神聖ローマ帝国皇帝
ルドルフ2世の驚異の世界展
2017年11月3日〜12月24日
福岡市博物館
2018年1月6日〜3月11日
Bunkamura ザ・ミュージアム
2018年3月21日〜5月27日
佐川美術館(滋賀県守山市)
アルチンボルド展を経た今、2018年冬の2回目の鑑賞は、2009年夏の1回目の鑑賞とは随分違った目で見ることができるだろう。
現に《司書》も、今回一目見て、そのカリカチュア的肖像画の魅力に惹かれている。
「ルドルフ2世が愛好した芸術家たちの作品を中心に、占星術や錬金術にも強い関心を示した皇帝の、時に魔術的な魅力に満ちた芸術と科学の世界」を紹介するという展覧会自体もたいへん楽しみである。
アルチンボルド
《フローラ》
1590年、油彩・板
個人蔵
本作品も、ミラノに帰還したあとの最晩年の作品である。
《フローラ》と題される作品は、何点か制作されていて、皇帝のために制作された作品もある。本作品については、誰のために制作されたのか明らかではないとのことである。
《フローラ》シリーズは、頭部を飾る色とりどりの花々、そして何よりも、淡い色の花びらによる肌の表現がたいへん興味深いところ。
是非実物を観たいものだが、画集に載っている数点は全て個人蔵であるので、今回のアルチンボルド展に出品されなかったということは、日本で見る機会が今後やってくるとは期待できず、お目にかかるためには海外のアルチンボルド回顧展を狙うしかないようである。
《フローラ》シリーズのうち、皇帝に送られたとされる作品は着衣の女性像であるのに対して、本作品の女性像は、胸をはだけさせている。
さらに、いわゆる「虫」類が花々にくっついているのだ。画面のあちらこちらに、多数の小さな「虫」類。
先日聴講した国立西洋美術館の講演会のなかで、本作品の「虫」類の部分拡大画像がいくつか紹介されたのだが、最後に紹介された画像は「乳首の上に蟻」。
ブロンズィーノ《愛の勝利の寓意》やフォンテーヌブロー派《ガブリエル・デストレとその妹ビヤール公爵夫人》もそうだが、そういう細工をされると官能度が増して、えらく印象に残る作品になる。
ところで、アルチンボルド作品は、意外にもスウェーデン所蔵の作品が多い。
冒頭記載の《ウェルトゥムヌスとしての皇帝ルドルフ2世像》や、アルチンボルド展の出品作では、《司書》、《法律家》、《コック/肉》と3点の作品がスウェーデンの所蔵である。
アルチンボルドに限らず、たいへん失礼ながら、なぜスウェーデンに?と思うような名画をスウェーデンが所蔵しているという勝手な印象がある。
これは、1648年、三十年戦争の最末期、スウェーデン軍がプラハを侵攻し、ハプスブルク家のコレクションを略奪したことによるものらしい。
コレクションは、スウェーデンへの運搬途中に消失したり(結構な比率で)、無事にスウェーデンに到着したものもその後様々な経緯で諸外国に流出したりしたらしいが、それでも現在、スウェーデン各地の美術館の宝として残っているようだ。