内藤コレクション
写本 - いとも優雅なる中世の小宇宙
2024年6月11日〜8月25日
国立西洋美術館
6章「時祷書」より
時祷書の構成と挿絵
時祷書に所収されるテキストの種類やその配列に厳密な決まりはなく、写本ごとに違いがあるが、一般的な内容と構成は下記のとおりである。
また、主要なテキストの冒頭には挿絵が添えられ、目印としての役割を果たすとともに信者の祈りを助けた。以下では、その標準的な挿絵の主題もあわせてみていく。
2.四福音書からの抜粋
祈りの際に朗読される四福音書テキストの抜粋。
「ヨハネによる福書書」1章1-14節、「ルカによる福音書」1章25-38節、「マタイによる福音書」2章1-12節、「マルコによる福音書」16章14-20節からなる。
執筆中の4人の福音書記者を描いた挿絵が、各福音書テキストの冒頭に置かれる。
No.112 (「ヨハネによる福音」抜粋)
ゲティ美術館10番写本の画家に帰属(彩飾)
《時祷書零葉》
フランス、リヨン、1475-80年頃
彩色、インク、金/獣皮紙
内藤コレクション
3.聖母の時祷
時祷書の中心となるパート。1日8回の礼拝の中では、聖母の生涯の出来事が順に祈りの対象となる。
フランスでは通例、その各祈りのテキスト冒頭に、対応する聖母の生涯の出来事を表した挿絵が添えられた(朝課:「受胎告知」、賛課:「ご訪問」、一時課:「キリスト降誕」、三時課:「羊飼いへのお告げ」、六時課:「マギの礼拝」、九時課:「キリストの神殿奉献」あるいは「割礼」、晩課:「エジプト逃避」、終課:「聖母戴冠」ないし「聖母の死」)。
一方、イングランドやネーデルラントでは、キリスト受難伝を表した例や、キリスト幼年期の物語と受難伝を組み合わせた作例も見られる。
No.100 (朝課:「受胎告知」)
リュソンの画家(彩飾)
《時祷書零葉》
フランス、パリ、1405-10年頃
彩色、インク、金/獣皮紙
内藤コレクション
No.116 (一時課:「キリスト降誕」)
ジャン・コロンブ(彩飾)
《時祷書零葉》
フランス、ブールジュ、1485年頃
彩色、インク、金/獣皮紙
内藤コレクション
No.121(三時課:「羊飼いへのお告げ」)
ジャン・ピショル原画
《時祷書零葉》
フランス、パリ、ギヨーム・ユスタスのために
フィリップ・ビグーシェ印行
1508年頃
金属凸版に手彩色、金/獣皮紙
内藤コレクション
No.97 (晩課など)
《時祷書零葉》
イングランド、1390-1400年
彩色、インク、金/獣皮紙
内藤コレクション
4.十字架の時祷
キリストの受難に対する祈りと瞑想をテーマとした時祷。冒頭の挿絵には、キリストの受難を象徴する「磔刑」が描かれることが多い。
No.102
《時祷書零葉》
フランス、アミアンあるいはアラス、1420年頃
彩色、インク、金/獣皮紙
内藤コレクション
5.聖霊の時祷
聖霊の働きに対する祈りと瞑想をテーマとした時。冒頭の挿絵は、復活を遂げたキリストの昇天後、使徒たちの上に聖霊が降った出来事を表す「聖霊降臨」を主題とする。
No.106
ワデスドンの画家(彩飾)
《時祷書零葉》
フランス、アミアン、1435-40年頃
彩色、インク、金/獣皮紙
内藤コレクション
No.123
《時祷書零葉》
南ネーデルラント、1460-70年頃
彩色、インク、金/獣皮紙
内藤コレクション
6.聖母への祈祷「あなたに切に願う(Obsecro Te)」、「おお、けがれなき者よ(O intemerata)」
聖母の慈悲やキリストへのとりなしを請う祈り。挿絵には「玉座の聖母子」などが描かれる。
No.108
《時祷書零葉》
フランス北部、おそらくパリ、1450-60年頃
彩色、インク、金/獣皮紙
内藤コレクション
10.とりなしの祈り
最後の審判におけるキリストの裁きが寛大であるよう、聖人にとりなしを請う祈り。それぞれの祈りの冒頭の挿絵には、聖人像や殉教場面が描かれる。
No.104 (福音書記者聖ヨハネに対するとりなしの祈り)
《時祷書零葉》
フランス北部、おそらくアミアン、1430年頃
彩色、インク、金/獣皮紙
内藤コレクション