決定版!女性画家たちの大阪
2023年12月23日〜2024年2月25日
大阪中之島美術館
明治から大正、昭和時代にかけて活動した大阪ゆかりの女性日本画家59名による作品186点を紹介する展覧会。
【本展の構成】
第1章 先駆者、島成園
第2章 女四人の会 - 島成園、岡本更園、木谷千種、松本華羊
第3章 伝統的な絵画 -南画、花鳥画など
第4章 生田花朝と郷土芸術
第5章 新たな時代を拓く女性たち
第5章「新たな時代を拓く女性たち」は、37人の女性画家の作品63点(前後期あわせ)が紹介される。
「美術の動向の一部を担い(担おうとし)、社会的な制約のあるなかで小さくも確かな足跡を残した」女性たちである。
第5章に限り撮影が可能。
以下では、特に見た作品を画像とともに記載する。
秋田成香(1900-没年不明)
《ある夜》
大正9年、個人蔵
大正9年(1920年)に高島屋呉服店心斎橋展で開催された現代名家美人画展への出品作。黒い背景に、行灯の前にしゃがんでいる若い女性が横から描かれる。モデルは画家自身という。
大阪中之島美術館寄託作品として103年ぶりに公開される作品。
大阪生まれの成香は、成園の幼馴染で、さらに成園門下となる。大正期の展覧会出品歴は確認されているが、その作品は所在不明で、また、昭和以降の活動が把握できていないようである。
吉岡美枝(1911-98)
《ホタル》
昭和14年、大阪中之島美術館
吉岡美枝
《シイの実》
昭和16年、大阪中之島美術館
吉岡美枝
《樋口一葉》
昭和17年、大阪中之島美術館
2023年の東京ステーションギャラリー「大阪の日本画」展で初めて知り、印象に残っている画家。
《ホタル》《シイの実》の少女のモデルは画家の姪。《樋口一葉》は、鏑木清方《一葉》(昭和15年、東京藝術大学大学美術館蔵)を左右反転させた構図となっているという。
《店頭の初夏》(昭和14年、大阪中之島美術館蔵)が非出品なのは残念である。
大阪生まれ。島成園に師事。その後中村貞似に師事。独身を通し、戦後も活動する。
橋本花乃(1897-1983)
《七夕》
昭和5-6年頃、大阪中之島美術館
北野恒富門下の「雪月花星」と称された4人の女性画家の一人。
帝展入選を目指した自身作であったが、輸送途中の色移りという事故もあってか、落選する。落胆し、結婚して家庭に入る道を選んだとされる。
鳥居道枝(1902頃-30)
《少女像》
大正9年頃、個人蔵
北方ルネサンスに傾倒した岸田劉生風リアリズムによる人物表現に日本画で挑んだ、画家18歳頃の作品。
モデルは画家の妹とされてきたが、本展企画者が、妹の高等女学校の卒業アルバムにて、妹ではないことを確認したようだ。地道な研究である。
東京生まれで、幼少期に陸軍技師の父親の赴任に伴い大阪に移り住む。岡本大更に入門し、大正9〜14年に各展に出品。肺結核により28歳頃に逝去。医学の道で大成した長男は、母の形見である本作を生涯愛蔵したという。
本展の最後を飾る作品。
島成園(1892-1970)
《自画像》
大正13年、大阪市立美術館
32歳の成園。髪は乱れ、両目の周囲には隈があり、病床にあるかのように重ね着し、顔は蒼白で、疲れた女が過剰なまでに演出される。
本展の企画者である大阪中之島美術館研究副主幹の小川知子氏は記す。
上村松園を筆頭に名を成した一部の作家だけを美術史に組み込むのは女性芸術家に関してフェアではない。性差ゆえの社会的現実に直面して制作を諦めた大勢の女性たちも、作品が現に存在し、あるいは制作発表した事実が残る限り、同時代の美術界の立派な一員だったと考えるべきである。少なくとも活動地の美術や文化を語るうえで彼女たちの存在を看過できず、歴史に刻まれる必要がある。
小川氏やその協力者による長年にわたる調査研究の成果が詰め込まれた実に興味深い展覧会。見てよかった。
ところで、小川氏は、2022年の「モディリアーニ」展も担当された方。学芸員の担当範囲は広いのですね。
【参照】
・本展図録
・芸術新潮2024年1月号、第2特集「なにわ女子のきらめき 近代大阪画壇ものがたり」