クリムト展
ウィーンと日本 1900
2019年4月23日~7月10日
東京都美術館
クリムト
《女の三世代》
1905年、171×171cm
ローマ国立近代美術館
老女の描写。うなだれ、顔を覆い隠す老女に、くすんだ色の肌、浮き上がる血管。ここまで容赦なく血管を描き込むのか。装飾的なオレンジ色の背景は、老化した細胞を表現したとの説も。
3人の女性はそれぞれ髪の毛の色が違い、家族ではないとの見方もあるらしい。ましてや同一人でもない、「生命の円環」。
クリムト(1862-1918)の没後100年を記念する展覧会。日本で開催のクリムト展では過去最多数の油彩画27〜28点が出品されている。
そのなかで一番楽しみにしていたのは、昨年12月に出品追加発表がなされた、クリムト《女の三世代》。
本展は《女の三世代》と《ユディトI》のツートップで宣伝。図録も《女の三世代》と《ユディトI》と2種類の表紙が用意されている。
本作は1905年制作。ベルリン、ウィーン、ミュンヘンなどで出品されたあと、1910年にヴェネツィアの国際美術展に、1911年にローマの国際美術展に出品される。ローマでは金賞を授与され、1912年にローマ国立近代美術館買い上げとなる。
クリムト展のメインビジュアル作品がイタリアから来日する、というのは意外感もあるが、クリムトの生前からその芸術はイタリアでも高く評価されていたらしい。
イタリアにおけるクリムトの優品として、他にも、ヴェネツィアの国際現代美術館が所蔵する《ユディトII》が挙げられる。同館は、制作の翌年1910年に買い上げている。同作は、本展で来日の《ユディトI》の8年後に制作された第2バージョンになる。
クリムト《ユディトI》
1901年
ベルベデーレ宮オーストリア絵画館
クリムト《ユディトII》
1909年
国際現代美術館、ヴェネツィア
《女の三世代》は、ゴシック後期からルネサンスにかけて好んで取り上げられた主題であり、そのなかではドイツの画家ハンス・バルドゥング=グリーン(1484/85-1545)の作品が知られている。
ハンス・バルドゥング=グリーン
《女の三世代と死》
1509-10年頃
ウィーン美術史美術館
ハンス・バルドゥング=グリーン
《女の三世代と死》
プラド美術館
クリムトも、こうした伝統をふまえているが、生のはかなさを暗示する骸骨姿の「死」は本作には見当たらない。そして、老女に対する遠慮のない描写。
クリムトは、最初の二世代を母と子のモチーフにまとめている。これは、この後《家族》《生と死》などの作品へと発展する。
なお、《家族》(1909-10年、ベルベデーレ宮オーストリア絵画館)も本展の同じ第8章に、距離は少しあるが《女の三世代》と向かい合う感じで展示されている。
《女の三世代》のサイズは、171×171cmと大型の正方形。
装飾的な背景は、母子グループと老女とでは、モチーフ、色彩とも異なっているが、いずれも華やかな装飾に見えるが、若い細胞と老化した細胞を表しているとの説もある。
三人が描かれた位置は、中央の三分の一。左の三分の一と右の三分の一は、上部が黒い平面、下部が水しぶきを散らかしたような背景。
さて、女の三世代というが、男も同じなのだが、人生80年超となった現代日本の感覚かもしれないが、こうした画を見ると、幼児と若者と老人の3ステージでは大雑把だなあと思う。人生は、その間にも重要なステージがあると思う。昔は、そういう感覚だったのかなあ。
そんな私の違和感は、約500年前の西洋にもあったらしい。前述のハンス・バルドゥング=グリーンは、次の作品を残している。
ハンス・バルドゥング=グリーン
《女の七世代》
ライプツィヒ造形美術館
ここには骸骨姿はない。
【更新:当初掲示2019.1.9、更新2019.5】