4月17日放送のNHK日曜美術館「美は語る 激動のウクライナ」をみる。
モノクロームの焼けただれた町ハルキウ。
21世紀、起こらないと思われていた戦争の姿のモノクローム写真から始まる。
現地のアーティスト、ウラジスラフ・クラスノショクの撮影。
侵攻当初は怒りに任せて、かなり強い表現の描き殴るような絵を描いていたが、3月24日から、芸術家としての自分の使命はこの事態を記録することだと始めたという。
本番組は、ウクライナの美術品を通して、ウクライナの歴史や文化を紹介する。
ゲストは、ヨーロッパを中心とした文明史を専門とする東大名誉教授の青柳正規氏と、ウクライナロシア美術の研究者である早大教授の鴻野わか菜氏。
以下、取り上げられた美術品。
1:紀元前のスキタイ遊牧騎馬民族
スキタイと言えば、「黄金」の副葬品。
アルタイ地域で紀元前7世紀の墓から出土した黄金の「鹿」の装飾品は、現実にはあり得ないほど長く伸びた角。
西に勢力圏を広げていくなかで、美術品にも変化。
ウクライナ東部で出土した「グリフィン」などが彫られた黄金の装身具は、ギリシャで訓練を受けた工人によるもの。
2:中世のキエフ大公国キエフ・ルーシ
ウクライナ、ベラルーシ、ロシアの一部を含む中世ヨーロッパ最大の国土を持つ、ゆるやかな連合体国家、キエフ・ルーシ。
大公が正教を国教に採用したのは、その宗教儀礼の美しさが決め手だったと言われている。
キエフの聖ソフィア大聖堂。1037年建立。
ドーム天井の6メートルの大きさの聖母マリアのモザイク画。
キエフ洞窟大修道院。
ギリシャ・アルファベットをもとに自分たちの言葉を取り込んだキリル文字。
12世紀初頭にキリル文字により編纂された、建国にまつわる歴史書「原初年代記」。
後世のものと思われる写本がとても美しい。
13世紀にキエフ・ルーシはモンゴルの侵攻を受けて崩壊する。
正教の主教座はモスクワに渡り、ウクライナはさまざまな国の支配を受けることとなる。
3:16-18世紀のリビウ
次のような小話が紹介される。
オーストリア・ハンガリー帝国で生まれ、
ポーランドで結婚し、
ソ連で働き、
ウクライナで余生を送っている。
しかし私は自分の村から一度も出たことはない。
1910年生まれのリビウの人の場合
0歳 オーストリア・ハンガリー帝国(1867〜1921)
20歳代 ポーランド(1921〜45)
30歳代 ソ連(1945〜91)
80歳代 ウクライナ(1991〜)
と、解説される。
16世紀、ポーランドの支配下にあったリビウに、独特な教会文化が誕生する。
ポーランドの国教カトリックに正教の人々が合流した「合同教会」。
カトリックへの帰属を受けいれながらも、正教会の儀式・典礼を保ち続ける。
18世紀、この町ならではの宗教彫刻が生まれる。
生地や修業地など来歴の一切分からない謎の彫刻家ヨハン・ピンゼル。
ウクライナ伝統の木造彫刻で、ヨーロッパのバロック表現を追求する。
《磔刑像》は、過激なまでにドラマチック。
《聖母マリア像》は、悲しみに激しく体よじり身もだえる母の姿。
《イサクの犠牲》は、究極の試練を受ける人間の姿。
1750年代後半の作品。
ピンゼルは、その作品からヨーロッパのいろいろな美術を知っていたことが伝わってくる。
18世紀リビウは、ヨーロッパのいろいろな美術・文化が混じり合う場所であり、そのような特徴が彼の作品に表れている、とウクライナのある美術史家は述べている。
4:ウクライナの国民的画家
2月27日、首都キーウの北西に位置するイワンキフ歴史地方史博物館が、ロシア軍の攻撃によって焼失し、ウクライナの国民的画家であるマリア・プリマチェンコの作品25点が焼失する。
マリア・プリマチェンコ(1908-97)。
貧しい農家に生まれ、絵は独学、刺繍職人の母に教わった刺繍が創作の原点。
1991年の独立以降、民族意識の高まりを受け、「国民的画家」として一層慕われる。
平和を願う作品とか、本当に幸せに暮らす人々の絵という作品自体が大きなメッセージを持っている、と鴻巣氏は語る。
5:現代のアーティストたち
ソ連時代のウクライナ出身のアーティスト、イリア&エミリア・カバコフ夫妻(現米国在住)。
若いミュージシャンとその母親を逃すための基金を立ち上げ、資金集めをしている。
新潟県十日町に設置された2021年制作の作品、世界のニュースに合わせて色を変える《手をたずさえる塔》などが紹介される。
ロシアのアーティストにも注目していく必要性がある、と鴻野氏は語る。
言論統制の強化下、それでも危険を冒して反戦的な作品を作り続けているアーティストも数多くいる。
戦争やデモを直接的に描くアーティストもいれば、レオニート・チシコフ《連作 僕の月》のように、みんなが同じ月を見ているということで、月を通じて国や民族を超えたつながりを表現する作家もいる。
私的には、初めて知る彫刻家、ヨハン・ピンゼルに関心を持つ。
1700年代に生まれ、1761/62年頃死去。
日本では、2010年9月に片山ふえ著『オリガと巨匠たち――私のウクライナ紀行』(未知谷)で初めて紹介され、2011年10月10日放映のNHK『極上美の饗宴』でとりあげられ、翌11月には作品集『ピンゼル』(未知谷)が刊行されている(Wikipediaより)。
本番組により、ウクライナの歴史をざくっとではあるが知識を得る。
今売れているらしいウクライナの歴史本を読んでみようか。
コメントありがとうございます。
美術品を通じて、複雑・多層的な歴史を知ることができる番組でしたね。
ウクライナの人々に1日も早く平穏な生活が訪れることを祈ります。