モネ 連作の情景
2023年10月20日〜2024年1月28日
上野の森美術館
モネ展を再訪する。
今回は朝一番、開館時刻9時の枠を確保。
5分前の到着。既に入場を開始している。
1階展示室を通り抜け、先に2階展示室に行く。
人がほぼいないなか、お気に入り作品を独占鑑賞する。
そんな時間は15〜20分ほどだっただろうか、徐々に人が増えてくる。
退館時には、「モネの庭」「睡蓮の池」作品が展示されるスペース、その出口近くの、狭い、撮影可能なスペースは、人でごった返している。(見出し画像は、朝一の時間帯でないとまず撮影できない「睡蓮の池」3点の展示風景。)
本記事では、初回訪問時の3記事で取り上げていない作品から、お気に入り作品を記載する。
【本展の構成】
1章 印象派以前のモネ
2章 印象派の画家、モネ
3章 テーマへの集中
4章 連作の画家、モネ
5章 「睡蓮」とジヴェルニーの庭
再訪時、最初に向かった作品。
《雨のベリール》
1886年、60.4×60.4cm
モルレー美術館
この作品が素晴らしい。
遠くに見えるベリールの集落に降り注ぐ雨。
まさしく雨の情景。
雨というのは、このように描くのか。
もう1点同構図の作品が存在する(本展非出品)。
個人蔵であるようだ。
モネは、1886年9月12日〜11月25日の約2ヶ月間、「美しい島」という意味の名を持つ小島、ベリールに滞在する。
ノルマンディー地方の温泉町フォルジュ=レゾーに滞在した後、当初予定のエトルタではなく、急遽、ブルターニュを旅することを決める。
最初は島の北東岸に位置する中心地ル・パレに滞在するが、あまりにも都会すぎて興味を惹かない。
9月15日以降、島の西側の小さな村ケルヴィラウアンに滞在することとする。
「8軒から10軒の家からなる小さな集落」で、「『ラ・メール・テリーブル(恐ろしい海)』と呼ばれる場所のそば」、「10キロ四方に木はなく、魅力的な洞窟と岩場」があり、「不吉で、恐ろしいのですが、とても美しい」、「同じものを他で見つけることはできない」。
モネは、この土地を気に入り、制作に励む。
到着時には恵まれていた天候も、10月は風雨や嵐で荒れ模様となって制作がままならない日も多かったが、懸命に制作する。
滞在中の制作作品として知られるのは39点。
38点が風景画で、1点が肖像画とされる。
38点の風景画のほとんどは海景画であるらしい。
本展には、海景画1点と海景画ではない風景画1点が出品される。海景画は、茨城県近代美術館の所蔵作品である。
《ポール=ドモワの洞窟》
1886年、65.5×83.0cm
茨城県近代美術館(国立西洋美術館にて撮影)
アーティゾン美術館もベリールの海景画を所蔵する(本展非出品)。
本展出品作と同じ題名だが、描かれるものは全く違う。
《雨のベリール》
1886年
アーティゾン美術館(所蔵館にて撮影)
《雨のベリール》の次に向かった作品。この2点も素晴らしい。
《クルーズ渓谷、曇り》
1889年、73.5×92.5cm
フォン・デア・ハイト美術館、ヴッパータール
&
《クルーズ渓谷、日没》
1889年、73.0×70.5cm
ウンターリンデン美術館、コルマール
1889年2月下旬、美術批評家のジェフロワに誘われて、フレスリーヌで隠遁生活を送る詩人モーリス・ロリナを訪ねる。
フレスリーヌは、パリから南へ350kmほど離れたフランス中部山岳地帯に位置し、クルーズ川の作る峡谷を見下ろす村である。
モネは、この土地の荒涼とした風景にすっかり魅せられる。
いったんジヴェルニーに戻ったあと、3月6日にはカンヴァスと絵の具を携えて再訪する。
当初は1カ月ほどの滞在予定であったが、天候に恵まれず、結局5月半ばまで滞在する。
滞在が長引くうちに、川沿いの木々が芽生え始めてしまうアクシデント?も。
眼の前の情景を維持したいモネは、木の持ち主と交渉し、50フランの対価を払い、2人の労働者に芽を摘み取ってもらったという。
モネがクルーズ渓谷にて制作した作品は、24点とされる。
そのうち本展出品の2点を含む10点が、大クルーズ川と小クルーズ川が合流した地点を描く。
いずれもほぼ同じ構図で、光の効果のみを変えて描いている。
2点が並んでこその迫力、光の効果の違いを楽しむ。
(寂しいことに、「日没」は東京会場限りで、大阪会場では「曇り」のみの出品。)
本展には、もう1点クルーズ渓谷の作品が出品される。
《ラ・ロシュ=ブロンの村(夕暮れの印象)》
1889年、73.9×92.8cm
三重県立美術館
大クルーズ川の左岸の小村を対岸から描いたもの。
少し前に夕日が沈んだらしく、雲の下部が赤く染まっている。逆光の山肌。丘の稜線には、家々のシルエット。画面下部に白く走る道。丘を登る道も見える。
本作にはもう1点同じ構図の作品があるらしい。題名は同じく「ラ・ロシュ=ブロンの村」で副題が「沈む太陽」らしい。その画像・所在は確認に至っていない。
「極めて明度の低い画面を特徴とする」クルーズ渓谷の連作。
モネは、妻あての手紙に記す。
「いまいましい天気のせいで、仕事は捗らないし、自分の絵を見るとぞっとする。ひどく絵が暗いのだ。そのうえ何点かの絵には空がない。これは陰鬱な連作になりそうだ。」
【参照】
・石橋財団ブリヂストン美術館館報No.64所収、賀川恭子氏『クロード・モネの1886年のベリール滞在』
・高橋明也監修、安井裕雄著『もっと知りたいモネ(改定版)』2022年9月発行、東京美術
・三重県立美術館HP