東京でカラヴァッジョ 日記

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【画像】「あやしい絵展」(東京国立近代美術館)

2021年04月02日 | 展覧会(日本美術)
あやしい絵展
2021年3月23日〜5月16日
東京国立近代美術館
 
 
   和暦で言えば明治30年代中頃から大正末くらいまで、西暦で言えば20世紀第1四半世紀の時代を中心に、日本における「退廃的、妖艶、グロテスク、エロティックな」美しさを持つ「あやしい」美術作品を紹介する展覧会。
 
【本展の構成】
1章:プロローグ  激動の時代を生き抜くためのパワーをもとめて(幕末~明治) 
2章:花開く個性とうずまく欲望のあらわれ(明治~大正) 
1)愛そして苦悩ー心の内をうたう 
2)神話への憧れ
3)異界との境で
4)表面的な「美」への抵抗
5)一途と狂気
3章:エピローグ 社会は変われども、人の心は変わらず(大正末~昭和)
 
   本展は、一部作品を除き撮影可能。
   以下、主に気になった作品を撮影した画像とともにメモする。
 
 
最初の展示室は、導入部
灯が抑えられて。
 
稲垣仲静《猫》
大正9年頃、星野画廊
   本展のトップバッター&ナビゲーター。本展で唯一、人間ではない(人間の形をしていない)あやしい絵。
 
 
安本亀八
生人形《白瀧姫》
明治28年頃、桐生歴史文化資料館
   幕末から明治、「生人形」が見世物興行で大人気をあったことは、木下直之氏の著書『美術という見世物』で知ったが、実物を見る機会はあまりない。
   見世物興行用は残らず、海外の好事家向け、学術用の人体模型などが少し残るのみのようだ。
   本作も、見世物興行用ではなく、桐生市の日本織物株式会社が敷地内の織姫神社に安置するために注文したもの。わずかに開いた口から歯や舌がのぞくのも「あやしい」。
 
 
1章   プロローグ(幕末~明治) 
 
曾我蕭白《美人図》
江戸時代18世紀、奈良県立美術館
   「江戸時代代表」のあやしい絵は、蕭白。正気を失った女性。4/4までの展示。以降、中盤は祇園井特、終盤は渓斎英泉に展示替え。
 
   歌川国芳、月岡芳年、落合芳機の血みどろ絵が続く。
 
 
2章-1   愛そして苦悩ー心の内をうたう 
 
   藤島武二《婦人と朝顔》明治37年、個人蔵  を観ることができたの収穫(2017年練馬の回顧展でも見ているはずだが、印象に残らず)。通期展示。撮影不可。
 
 
2章-2   神話への憧れ
 
青木繁による神話画のコーナー。
 
青木繁《大穴牟知命》
明治38年、アーティゾン美術館
*撮影不可。所蔵館訪問時の撮影画像を掲載。
   古事記の物語。
   大穴牟知命は、八上比売に求婚を断られて嫉妬した兄たちの策略により、全身火傷で死亡する。
    その死を嘆く母神に泣きつかれた神産巣日神は、赤貝の神である𧏛貝比売と蛤の神である蛤貝比売を差し向ける。
    𧏛貝比売が貝殻を削ってその粉を集め、蛤貝比売がこれを受けて母の乳汁として全身に塗ると、大穴牟知命は生き返る。
   左の女性が𧏛貝比売、右の女性が蛤貝比売。露わにした胸に手を添えた蛤貝比売は、何故観者へ視線を向けるのか。この女神のモデルは福田たねとされる。
 
 
2章-3   異界との境で
 
   「安珍・清姫伝説」、泉鏡花「高野聖」、人魚など、いろいろな作家が物語の一場面を描いたあやしい絵を見比べるコーナー。
 
   鏑木清方《妖魚》大正9年、福富太郎コレクション資料室  は、本展の見どころのひとつ。4/4までの展示。撮影不可。
 
 
2章-4   表面的な「美」への抵抗
 
   大正時代に描かれたあやしい女性たち。もっとも本展っぽいコーナー。
 
島成園《無題》大正7年、大阪市立美
梶原緋佐子《唄へる女》大正8年頃、京都国立近代美
梶原緋佐子《老妓》大正11年、京都国立近代美
   女性画家による3点が並ぶ。顔に痣のある女性を描いた島の作品は、自画像らしいが本人には痣はなかったとの解説あり。
 
 
甲斐庄楠音《畜生塚》《横櫛》《舞ふ》《幻覚(踊る女)》《裸婦》、大正4〜10年、いずれも京都国立近代美
  甲斐荘の作品5連発はあやしい絵の極致。
 
 
岡本神草《拳を打てる三人の舞妓の習作》大正9年、《仮面を持てる女》大正11年、いずれも京都国立近代美。
   岡本は「拳を打てる三人の舞妓」の本画制作に3度取り組んでおり、本出品作は2度目のもので未完成作。
   断念した前年に引き続き、国展に出品すべく制作を進めるが、締切までに作品を完成させることはできず、ほぼ完成していた画面中央の舞妓の部分だけを切り取って出品する。
   現在の本作は、切断された残りの部分が1987年に遺族の元で発見され、中央部分と合体されたもの。
   翌年の3度目の挑戦でようやく完成させたものの、その本画は現在所在不明で、図版のみで知られている状況とのこと。
 
   以上の作品はいずれも一度見たことがあるが、甲斐荘の《畜生塚》のみは初見。他に北野恒富、稲垣仲静、秦テルヲも展示。
   後期には、村上崋山の重文《裸婦図》山種美 や、岡本神草《口紅》京都市立芸術大学芸術資料館 が登場する。
 
 
2章-5   一途と狂気
 
   福富太郎コレクション資料室から、鏑木清方《刺青の女》《薄雪》、北野恒富《道行》、島成園《おんな(旧題名:黒髪の誇り)》(鏑木のみ撮影不可)。
   東博から、上村松園《焔》(撮影不可)。
 
北野恒富《道行》
大正2年頃、福富太郎コレクション資料室
 
島成園《おんな(旧題名:黒髪の誇り)》
大正6年、福富太郎コレクション資料室
 
 
3章:エピローグ(大正末~昭和)
 
   新聞、雑誌、書籍などの印刷物の挿絵。小村雪岱ほか。
 
 
 
   私的な収穫は、藤島武二《婦人と朝顔》、鏑木清方《妖魚》の2点かな。
 
   本展は前後期の展示替えに加え、前・中・終の展示替えなどもあるので、次回訪問は、4/20〜25がベストの感。
   その時期には、東京ステーションギャラリーの「コレクター福富太郎の眼」展(4/24〜6/27)も始まっている。美人画のみならず、風俗画や戦争画も出品されるとのことで、こちらも楽しみである。
 
   なお、本展は東京のあと、大阪歴史博物館に巡回する(7/3〜8/15)。


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