東京でカラヴァッジョ 日記

美術館訪問や書籍など

クラーナハ展-東京と大阪の出品作の差異 3選

2016年11月13日 | クラーナハ

クラーナハ展-500年後の誘惑
2016年10月15日~17年1月15日
国立西洋美術館


   2009年の「THEハプスブルク展」の《サロメ》で、クラーナハの魅力を教えてくれたブダペスト国立西洋美術館。


   本展でもまた魅せてくれた。

   本展の第1章、クラーナハ油彩画としては、順路に従えば2番目の登場作品となる。


《聖母子》
1515年頃
81.6×54cm
ブダペスト国立西洋美術館

 

   授乳の聖母。
   観者に直接眼差しを向ける聖母。
   背景に広がる風景。


   後に並ぶ作品とは、ちょっと雰囲気が異なる。イタリア美術の影響が出ている作品といえるだろうか。

 

   ダルムシュタットには、別バージョン作品がある。


(参考)《聖母子》
1516年頃
59 x 38cm
ヘッセン州立博物館、ダルムシュタット

 


   《聖母子》の出品番号はNo.7 だが、その一つ前、No.6 は出品リスト上欠番。大阪会場限りの出品となるらしい。No.6 作品を図録で確認すると、なんと、クラーナハの油彩画作品であった。


《ブドウを持った聖母》
1509/10年頃
71.5×44.2cm
ティッセン=ボルネミッサ美術館

 


観たい!


   本展出品の油彩画のなかでは、制作年代が古い作品の一つ。

   聖母が持つブドウに触れる幼児キリスト。
   聖母の眼差しは、やや伏せぎみか。
   背景に広がる風景。


この1点のために大阪に遠征すべきか?


   大阪会場のクラーナハ油彩画は、単純に本作品1点が増えるのか。それとも入れ替わりに何か1点退場してしまうのか。そうだとしたら、その1点は、同様の主題であるブダペストの《聖母子》なのか。


   図録をよくよく確認すると、同じティッセン=ボルネミッサ美術館からの作品が入れ替わるとある。

   退場する作品は、第3章の肖像画部門の次の作品。


《神聖ローマ皇帝カール5世》
1533年
51.2×36cm
ティッセン=ボルネミッサ美術館

 


   そこで、東京と大阪での出品作品の差異を図録で確認する。

 

クラーナハ展-東京と大阪の出品作の差異 3選


1)ティッセン=ボルネミッサ美術館出品作

   上述のとおり、ティッセン=ボルネミッサ美術館からのクラーナハ油彩画作品が入れ替わる。


2)《不釣り合いなカップル》

   クラーナハの油彩画作品では、もう1点、東京会場限りの作品がある。

   第5章の《不釣り合いなカップル》である。

   東京会場ではウィーン美術史美術館作品とデュッセルドルフ作品が並んで展示されているが、大阪会場ではデュッセルドルフ作品が退場する。その分、別画家の同主題の版画作品が1点追加される。


《不釣り合いのカップル》
1530年頃
38.8×25.7cm
クンストパラスト、デュッセルドルフ

 


3)現代作家レイラ・パズーキの《ルカス・クラーナハ(父)《正義の寓意》1537年による絵画コンペティション》


   東京会場では、クラーナハ油彩画《正義の寓意》実物の隣に、縦5枚×横18枚=計90枚の《正義の寓意》複製画からなる、縦3.6メートル×横9メートルほどの大型作品が置かれる。


   それが、大阪会場では、なんと、1枚になるらしい。


   2011年、中国の深圳にある、世界の複製画の約半数を生産する芸術家村で行われたワークショップの産物。
   作家は、100名の画家を集め、作品を可能な限り正確に模写させる。ただし、7時間以内という時間制限を設ける。


   その結果、まあ似ているかなというものもあれば、なぜこうなっちゃうのかと首を傾げたくなるものもある。同じ複製画制作を職業としている者の間で、同じ作品を元にしながら、こんなに差異が出るものか。専門分野あるいは経験度の差によるものか?依頼者の意向をそれとなく汲んだか否かなのか?


   それはともかく、作家が現代アート市場に対する「複製」の問題を提起するにあたり、16世紀において工房システムによる作品の複製・再生産方式を確立し事業家として成功したことに加え、西洋美術史上の巨匠としても名を残したクラーナハの作品、しかも「正義」を題材とした、100点に及ぶヴァージョンが存在するとされる作品を利用した、というのが肝であるらしい。


   恐らく写真パネルは用意されるのだろうが、「複製画」実物が1枚だけとは、驚き。
   どの1枚が選ばれるのか、似ている系かとんでも系か、気になる。

(図録によると、本作は95枚からなるとあるが、東京会場展示は90枚。つまり5枚外されている。どの5枚を外したのだろうか。)

 

 

   ここまで書くと、大阪会場にも行きたくなる。



コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。