スコットランド国立美術館
THE GREATS 美の巨匠たち
2022年4月22日〜7月3日
東京都美術館
見納め。
ベラスケス(1599-1660)
《卵を料理する老婆》
1618年、100.5×119.5cm
卵、果物、玉葱、唐辛子。
陶・金属・ガラスなどの器、火鉢、籠。
テーブル上の配置など少しわざとらしい感もあるが、見事な静物の描写。
お気に入りは、木のスプーン。
静物以上のお気に入りは、老婆と称される女性。
画業初期の地元セビーリャ時代は、画家の家族など身近な人物をモデルとして制作することが多かったとされるベラスケス、一説によると、本作の女性は画家の母親をモデルとして描いたという。
だからなのか、当時18〜19歳の画家が母親を特別な思いをもって描いたから、これほど魅力的な描写になったのか、と納得する。
その説は外れていて、この女性に対する強い光の効果、画家のキアロスクーロの技術が見事だから、なのかもしれないけど。
女性の衣装や白い被り物の描写も見事である。
閉館時間近くの少しの時間、本作を独り占めできて、単眼鏡も利用しながら眺める。
私にとって、本展は、ベラスケス《卵を料理する老婆》を観た展覧会として、一生の思い出に残ることとなろう。
ベラスケスが断然素晴らしいのだが、それ以外にも魅力的な作品が多数出品されている本展。
以下は、決してお気に入りというわけではないが、変に印象に残る2点を記載する。
パリス・ボルドーネ(1500-71)
《化粧をするヴェネツィア女性たち》
1550年頃、97×141cm
ヴェネツィアおよび地元トレヴィーゾで活躍した画家。
本展の地下1階の展示室、お気に入りのベラスケスとヴェロッキオとの間を何度も行き来していると、その途中に展示される本作品に妙に気になる点がある。
本作を真正面から見たときにはそうでもないのに、斜めの離れた位置からだと、真ん中の女性の胸がえらく強調されて見える。
やがて理由が判明。女性のネックレス。
真正面からはネックレスだと分かるが、斜めの離れた位置からは太めの描線に見えて、形が変わって見えるのだ。
ジャン=バティスト・グルーズ(1725-1805)
《教本を開いた少年》
1757年、62.5×49.1cm
フランスの画家グルーズは、道徳的絵画、ロココ風の風俗画により絶大な人気を博した。
先のメトロポリタン美術館展には《割れた卵》が出品されていた。
しかしその死後は、急速に評価されなくなったらしい。
文豪スタンダールは、1827年に刊行した『イタリア旅日記』のなかで、カラヴァッジョの良さを述べる引き合いとして、グルーズの絵を「下手な絵」と言いきっているが、何故没後20年を超えていたグルーズを出したのか、背景が分からない。
さて、本作。
書籍を手で隠しているが、それは、記憶しようとしている本のテキストを手で隠して、本当に記憶できているか確認しようとしている少年、「美徳」を表した作品。
逆に、同時期の作品ではないが、怠慢な少年を描いた作品も存在するようだ(参考画像)。
本展出品作では、18世紀後半の英国画家モーランドの対作品も美徳・悪徳対比パターンで、この時代の定番の主題であるようだ。
〈参考:ファーブル美術館所蔵〉
本展は、東京のあと、神戸市立博物館と北九州市立美術館に巡回する。