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河鍋暁斎の底力
2020年11月28日~2021年2月7日
東京ステーションギャラリー
また暁斎の展覧会? といいつつも、ほぼ毎度行く(2015年以降、2016年を除き、毎年1展の鑑賞実績)。
本展は、「あえて」本画や版画の完成作を展示せず、写生(素描)、画稿(習作)、模写、席画(宴席などで即興で描く)、下絵、版下絵、絵手本(弟子の参考として描く)など「暁斎の生の筆づかいが感じられる作品」に限定したところが特徴。
「ほぼ史上初(当館調べ)100%暁斎の展覧会」だそうである。
また、本展は、当初予定の国際巡回展「ハリー・ポッターと魔法の歴史」が延期となったことから、その代替として急遽企画されたもの。企画自体は当館の学芸員が以前から温めていたとはいえ、約半年という異例の短期間で実現にこぎつけたとのこと。東京ステーションギャラリーおよび出品作の所蔵者・河鍋暁斎記念美術館の関係者の「底力」に敬意を表したい。
1章 描かずにはいられない - 写生・模写・席画等
冒頭の《象 写生》は、1863年に両国橋西詰での象の見世物時に描いたもの。リアルに描かれた雌の象。
席画のなかでは、月次風俗図(12幅のうち前期は1〜6月の6幅が出品)の6月《電信柱に夕立》。文明開化の象徴の一つ「電信柱」が大きく描かれ、その下に小さく人々が夕立を逃れようと走る。雨雲の描写もよい。
2章 暁斎の勝負どころ - 下絵類
見どころ沢山(個人の感想)の章。
《夕涼み美人 下絵》は、縁台に腰掛けた裸体の女性に片肌脱いだ形で衣装を着せた画と、同じ縁台に腰掛けて片肌脱いだ女性の肌を出した部分と手と顔が骸骨化している画の組合せからなる。
《卒都婆小町下絵絵巻》は、九相図であるが、女性が少しずつ腐敗していく数場面に、唐突に、女性の顔(腐敗していく女性の嘆きといった関連図?)、そして、トラやウサギの顔が登場する。トラやウサギは、暁斎が本図を描いている最中に弟子に問われたので、そのまま本図の余白に手本を描きこんだということであるらしい。
《地獄極楽めぐり図 下絵》は44図あるらしいが、うち4図が展示。
本作は、暁斎のパトロンである日本橋大伝馬町の小間物問屋の勝田五兵衛が、14歳で夭折した娘・田鶴の一周忌の供養のため注文したもの。娘がこの世の娯楽や地獄を巡って極楽往生するまでの旅の様子が描かれる。
別の暁斎展にて、娘・田鶴があちらの世界でひな祭りの日を過ごしている様子を描いた作品を見ている。これはたまらない。
《太田道灌 山吹の里 下絵》の山吹を差し出す農家の娘、《小判を拾う梅が枝 下絵》、《伏水常盤雪仲之図》の常盤、いずれの女性もカッコいいが、特にカッコいいのが《蚊帳を出る女 下絵》。
《女人群像 下絵》は、思い思いに寛ぎの時間を過ごす5グループの若い女性たちが画面一杯に描きこまれる。中世から江戸時代後期に至るまで、時代も階級も様々であるらしい。
《浴場図 下絵》は、裸の老若男女が湯を楽しむ光景。
《河竹黙阿弥作『漂流奇譚西洋劇』下絵》は、4図が展示。1879年の歌舞伎狂言の宣伝のための行灯絵の下絵とのこと。漂流して西洋に流れ着いた親子の波瀾万丈の物語の模様。パリ・オペラ座など。描かれる西洋人の西洋人っぽい荒々しさが面白い。
《鳥獣戯画 下絵》は「梟と狸の祭礼行列」と「猫又と狸」の2図。後者の画面の上部に続く新たなピースが発見され、本展が初公開の場とのこと。
《戦う西洋婦人 版下絵》は、版画の下絵だが、トランプの柄のようなジャンヌ・ダルクが描かれる。
3章 暁斎の遺産 - 絵手本
《人物動態 男女・子供 絵手本》は、まず黒の線により裸体の男女・子供を描き、その上に赤い線で衣装を着せている。
以上、暁斎の下絵類を中心に大いに楽しむ。
JR西川口駅から徒歩20分の蕨市にある河鍋暁斎記念美術館も訪問したいもの。