国の美術品補償制度対象展覧会の実施報告書を見る。
突然のコロナ禍での対応。
1 コロナ禍前の展覧会
「オランジュリー美術館コレクション ルノワールとパリに恋した12人の画家たち」展
横浜美術館
2019年9月21日〜20年1月13日 223,878人
安全配慮に関する特別の対応
・往復の輸送便にはオランジュリー美術館のクーリエが随行し、作品の安全に細心の注意を払った。
・オランジュリー美術館での梱包時、横浜美術館での開梱・再梱包時、およびオランジュリー美術館に返却された際の開梱時の各段階でコンディション・チェックを行い、オランジュリー美術館のクーリエが調書へ記入・署名を行った。
・作品輸送時や展示・撤去時には必ず主催者スタッフが立ち会った。
2 巡回途中にコロナ禍に直面した展覧会
「コートールド美術館展 魅惑の印象派」
東京都美術館
2019年9月10日〜12月15日 345,940 人
愛知県美術館
2020年1月3日〜3月15日 83,156 人
*3月2日以降臨時休館。3月1日をもって閉幕。
神戸市立博物館
開催中止
・コロナ感染拡大に伴い、愛知会場では途中閉幕、神戸会場では開幕することができず開催中止となった。
クーリエの往来が制限され、当初予定どおり、イギリスからクーリエが来日することがかなわず、その監督下でのコンディションチェックや梱包、輸送ができない状況となった。
さらに、飛行機の減便により輸送便の確保が難しく、当初の国家補償締結期限内に返却が困難な状況となったことを踏まえ、作品のコンディションチェックや、クーリエの随伴方法について文化審議会美術品補償制度部会で審議をされ、国家補償締結期間の延長に伴う手続きが可能となった。当初予定よりも返却日が遅れたが、国家補償でカバーされた状況下での返却が無事に終了した。
安全配慮に関する特別の対応
・コロナ感染拡大に伴い、イギリスからのクーリエの来日が不可能であるため、日本人クーリエによる神戸での撤去・梱包およびイギリスまでの作品随行を実施した。
一部作品の撤去作業は、Teams機能を用いてオンラインでイギリスに映像中継し、コートールドスタッフが見守る中で実施した。さらに全作品の写真を日本側で撮影し、コートールド側へ即日共有した。
作品のトラックへの積み込みに関しても、イギリスにオンラインで中継し、作品のトラック内の固定方法など含めて、コートールドスタッフと相談しながら実施した。飛行場の上屋でのパレット搭載に関しても、写真を逐一送付してコートールドと確認を行った。時差はあったが、映像中継することでクーリエは不在であったが、所蔵館のアドバイスを貰いながら作品の安全を確保することができた。
ロンドン到着後に、フライトに問題がなかったことをコートールドスタッフに連絡し、ヒースロー空港の上屋からはコートールドスタッフが作品を引き取ることで返却を完了した。オンラインでの映像中継や携帯電話でのチャット機能、電話などを駆使し、可能な限りコートールドと同時に情報共有して作業を進め、作品の安全性の確保に努めた。
ロンドンでの作品開梱・コンディションチェックは現地在住の保存修復家に、日本側主催者の代理として委託した。作品写真およびコンディションレポートは速やかに共有され、全作品のコンディションに問題がないことを確認した。
紹介事例・今後の改善点等
・コロナ禍での海外クーリエの来日がかなわず、かつイギリス入国後の2週間自主隔離が要請されるという状況のなか、特例として日本人クーリエによるイギリスへの入国なしの作品随行を実施した。
オンラインによる撤去、梱包、トラック積み込みなどの実況中継により、先方の美術館スタッフにパソコン上で見守ってもらいながら、作品の安全を最大限配慮することができたと考える。イギリス到着後のコンディションチェックも終了し、全作品を無事に返却することができた。
3 会期中にコロナ禍に直面した展覧会
ピーター・ドイグ展
東京国立近代美術館
2020年2月26日〜10月11日 71,226 人
※2月29日〜6月11日は臨時休館
・新型コロナウイルス蔓延により、臨時休館せざるを得ず、その間の公開が出来ず、予定通りの作品の返却が不可能となった。このため、所有者の理解を得ると共に、国家補償の延長に係る変更承認申請を行い、認められた。このことにより、当初の会期を延期出来ることとなった。
・新型コロナウイルス蔓延により、閉幕時に、クーリエの来日および日本側コンサバーターの海外渡航が出来ず、更に日本側の修復家や学芸担当者が所有者の元でのコンディションチェックに立ち会えないこととなった。
そのため、日本における梱包においては、インターネットを使い、所蔵先とコミュニケーションを取りながら、作品のコンディションチェックを実施することとなった。また、現地に借用時に立ち会った修復家や学芸担当者が渡航困難な状況となったことから、主催者が依頼したスタッフが主催者側代理人として輸送立ち合い、作品のコンディションチェックを行った。更に、作品を載せたカーゴ機へのクーリエの同乗も出来なかったため、特例的な措置として、クレートにデータロガーやショックウォッチを付けることで作品の安全な状態を確認できるように努めた。
・また飛行機の減便により、返却輸送便の確保が難しく、直行便ではなく経由便を利用することとなったが、国家補償締結期間内での返却可能なスケジュールを確保に努め、無事に作品返却を終了することが出来た。
安全配慮に関する特別の対応
・往路の輸送便には、各館のクーリエや日本側開催館学芸員、修復家が随行した。
・復路については、新型コロナウイルス蔓延により、クーリエの来日、日本側スタッフの海外渡航が難しかった。そのため、日本における作品梱包は所蔵先の学芸員等とインターネット経由で作品コンディションチェックを実施し、情報の共有化を図った。
また輸送に関して、日本国内の移動は、主催者がトラックに同乗し、パレットへのクレート積み付けまで立ち会った。その後、飛行機での輸送に関しては、クレートにデータロガー、ショックウォッチを付けて、作品の安全に細心の注意を払った。
現地に到着後についても、主催者が依頼したスタッフが主催者側代理人として輸送立ち合い、作品のコンディションチェックを行った。返却先がアメリカ、ヨーロッパと多岐にわたったが、写真などで速やかに情報を共有することで、安全を最優先にした輸送プロセスを確保できた。
4 コロナ禍下で開幕した展覧会
コロナ禍下、本制度の対象展覧会がしばらく途絶えていたが、現時点では1展覧会が対象となっている。
東京都美術館(〜12/12)のあと、福岡と名古屋に巡回する「ゴッホ展ー響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」である。(よって、実施報告書はまだ先。)
そのような展覧会ばかりに国の美術品補償制度が使われたとは???でございます。
この制度は一か所から借りてくるような安易なものだけでなく世界各国から作品を集める回顧展などにしっかり適用するようにしてほしいと思っています。
この制度ができてから飛躍的に展覧会の質が上がったとは全く思わず残念だなと思ってます。これまでの展覧会を維持とでもいいましょうか。そんなイメージです。この制度がなければいくつかの展覧会は消えていたと思うとあってよかったと思いますけど、事故はほぼ起きないのですからもっと多くの展覧会に適用してほしいものです。
コメントありがとうございます。
適用条件が厳しいらしい(きちんと確認していません)ので、いわゆる大量集客型の展覧会が並んでいる印象ですね。また、改めて見ると、特定の国に集中している印象があります。たまたまかもしれませんが、アメリカ(マルセル・デュシャン展くらい)やイタリア(ラファエロ展くらい)、ドイツがほぼ出てこない。
このご時世でさらに難易度が高くなっているでしょうけれども、おっしゃるとおり世界各国から作品を集めるような回顧展がもっと出てきて欲しいものです。
もう一つ、記事にはできていませんが、文化庁の「強制執行等することができない海外の美術品等の指定について」も興味深いです。