没後30年記念
笠松紫浪 ― 最後の新版画
2021年2月2日〜3月28日
(前期:~2月25日 後期:3月2日~)
太田記念美術館
笠松紫浪(1898〜1991)の新版画を紹介する没後30年記念の展覧会。130点の展示(前後期で全点入替え)。
紫浪の新版画は、その作風が川瀬巴水の風景画と類似しているためか、その陰に隠れてしまい、これまで掘り下げて紹介されることはほとんどなかったという。
東京の街や、関東・信州の温泉地の風景を描いた作品が多い。
紫浪の新版画制作は4期に分かれる。
1:1919〜20(大正8〜9)年
版元:渡邊庄三郎
2:1932〜41(昭和7〜16)年
版元:渡邊庄三郎
3:1948〜50(昭和23〜25)年
版元:渡邊金次郎(庄三郎の甥)
4:1952〜59(昭和27〜34)年
版元:芸艸堂
1と3の時期の制作点数は少なく、2と4の時期の作品がメインとなる。
個人的には、2の時期の作品が好み。特に東京の街を描いた作品はエキゾチック感すら漂う。
4の時期の作品は、線も色もぽちゃっとして抒情に欠ける感があり、また版画を通じた風景としては時代が近いためかエキゾチックさに不足する感。
以下、印象的な2の時期の作品。
《雨に暮るゝ塔((東京谷中)》
昭和7年
雨の抒情。1791年に再建された谷中の五重塔は、1868年の戊辰戦争や1923年の関東大震災で無事であり、1932年制作の本画の後の1945年の東京大空襲でも無事であったというのに、1957年の放火心中事件で焼失したというのは何とも。
《春の夜―銀座》
昭和9年
これは凄く良い。屋台の寿司屋、新橋演舞場の東をどりの広告看板、銀座の街を行く洋装和装の人々、洒落た洋風建築、電燈の灯、そば屋の赤ネオン。エキゾチック。紫浪の代表作の一つらしい。
《信州白骨温泉》
昭和10年
この露天風呂は私には無理。普通に湯を楽しむ彼女たちは高い所が大好物なのだろう。この風呂にはどこから出入りするのか、大岩の手前に細い通路らしいものがある。本当に当時存在したのか、今もあるのか。
《満洲国皇帝陛下奉迎門》
昭和10年
昭和10年に愛新覚羅溥儀が訪日した際に東京駅に設けられた奉迎門の夜のライトアップ風景。時代を感じさせられる一方で、現在も東京駅丸の内口に立てば、容易に想像できそうな風景。
《暁霧をついて》
昭和12年
一見抒情的な空間「暁霧をついて」進むのは日本兵。そういう画題の需要があると思われた時代だったのだろうが、現に売れたかどうかは極めて疑問。
オンライン展覧会も開催中。
リアル展覧会と同じく前後期制で、前期および後期の販売期間はリアル展覧会の会期と同じ(ただし購入後は無期限で鑑賞可)、展示作品もリアル展覧会の展示作品と同じ、作品解説もリアル展覧会での作品解説と同じ、販売料金もリアル展覧会の入場料と同じという。
また、展覧会図録も一般書籍として発売中。