レオナルド×ミケランジェロ展
2017月6月17日〜9月24日
三菱一号館美術館
「ルネサンスの2大巨匠による稀少な素描を見比べられる日本で初めての機会」の本展。
以下では、最初の展示室と最後の展示室について記載する。
序章:レオナルドとミケランジェロ-そして素描の力
レオナルド3点、ミケランジェロ2点が出迎える。
本展メインビジュアルの素描2点は、早くも序章で登場。
レオナルド・ダ・ヴィンチ
《少女の頭部/《岩窟の聖母》の天使のための習作》
1483-1485年頃
181×159 mm
トリノ、王立図書館
ミケランジェロ・ブオナローティ
《《レダと白鳥》の頭部のための習作》
1530年頃
355 × 269 mm
フィレンツェ、カーサ・ブオナローティ
レオナルドの素描は、ルーヴル美術館所蔵バージョンの作品の習作とされる。
「「最も美しい」とされるレオナルドの素描」という謳い文句は、これまで来日したレオナルドの女性像の素描に対して同様の文句を何度も聞いてきたので無視するが、確かに好ましい女性像である。
ミケランジェロの素描は、フェラーラ公アルフォンソ・デステが注文したが、何らかの理由で注文主の手に渡らず、後年失われてしまった作品の習作とされる。
当時はよくあったことのようだが、ミケランジェロは女性のレダを描くのに男性モデルを利用している。そう言われれば確かに男性を描いている。男性を描いたうえで、左下で、女性への変換を試みているということらしい。2013年の国立西洋美術館「ミケランジェロ展」で「初来日」した作品である。
レオナルドの《岩窟の聖母》も、ミケランジェロの《レダと白鳥》も、後ほど他画家による油彩画模写作品が登場する。
レオナルドとミケランジェロの肖像画。
マルチェッロ・ヴェヌスティ(帰属)
《ミケランジェロの肖像》
1535年以降
360 × 270 mm
フィレンツェ、カーサ・ブオナローティ
レオナルド・ダ・ヴィンチ
《自画像(ファクシミリ版)》
1515-1517年頃
333 × 213 mm
トリノ、王立図書館
ミケランジェロのこの肖像画は、日本におけるミケランジェロ展ではお馴染みの作品ではないか。直近では、2016年のパナソニック汐留ミュージアム「ミケランジェロ展」で来日。
ミケランジェロは肖像に描かれることを嫌っていたらしい。が、親しい弟子たちによる作品は何点があって、それらは繰り返し模写されたという。本作は、そのような模写作品の一つとされているようだ。1535年以降の作とされるので、60歳頃、《最後の審判》制作に着手する直前の肖像となる。
レオナルドの自画像は、実物ではなく、ファクシミリ版である。
ファクシミリ版とは何か、改めて確認すると、「書誌学におけるファクシミリとは、歴史的価値を持つ典籍のオリジナルと、可能な限りそっくりになるよう製作された複写または複製を指す。これは原本の大きさ、色、状態、その他材質などをできるだけ正確・忠実に複製しようとしている点で、他の複製ものとは異なる」(wikipedia)。当然高価で貴重。関係ないが、画像情報のファクシミリは、音声情報の電話より30年ほど早く開発されたそうだ。
さて、レオナルドの現存する自画像は、この1点であるようだ。ただ、レオナルド作とすることはよいとしても、自画像とすることに対しては異論もあるという。実物は、かなり保存状態が悪く、展示するどころか、「このままでは永続的な保存が困難」とされているらしい。
アンドレア・デル・ヴェロッキオ工房(レオナルド・ダ・ヴィンチ?)
《ヴェロッキオ作《キリストの洗礼》の天使のための習作》
1470年代
231 × 171 mm
トリノ、王立図書館
ウフィツィ美術館が所蔵するヴェロッキオ作《キリストの洗礼》。工房主であるヴェロッキオが本作品の背景や左端の天使を弟子のレオナルドに担当させたことで、レオナルドの作品として専ら取り扱われる。
レオナルドが描いた左端の天使を見て、ヴェロッキオは筆を折り、その後2度と絵を描くことはなかったという逸話が有名であるが、「単に工房が受注した絵画の制作のほとんどを弟子達に任せ、自身は専門の彫刻に専念していったというだけ」(wikipedia)らしい。
そのレオナルドが描いた天使と似た素描が展示されている。だから、作者は「アンドレア・デル・ヴェロッキオ工房(レオナルド・ダ・ヴィンチ?)」とされているが、どうだろうか。レオナルドの準備段階の素描というよりも、完成した天使を他の画家が模写したという可能性が高そうな気がする、根拠なしです。
終章:肖像画
最後の展示室には、素描3点と油彩画1点。
レオナルド・ダ・ヴィンチ
《月桂樹の冠をかぶった男性の横顔》
1506-08年頃
168 × 125 mm
トリノ、王立図書館
本章では、この素描がメインとなる。
ロンバルディア地方のレオナルド派の画家(ジョヴァンニ・アンブロージョ・デ・プレディス?)
《貴婦人の肖像》
1490年頃
510 × 340 mm
ミラノ、アンブロジアーナ美術館
かつては、レオナルドの真筆とも見られていた油彩画。2013年の東京都美術館「ミラノ・アンブロジアーナ図書館・絵画館所蔵 レオナルド・ダ・ヴィンチ展-天才の肖像」でも来日。まあ、レオナルド作とするには無理があるレベルだなあ。
当初予定どおりであれば、終章にレオナルド(帰属)の《美しき姫君》も加わっていたのだろう。
1998年のクリスティーズのオークションで、19世紀初頭ドイツ人画家による『ルネサンス風のドレスを着た少女の横顔』として出品された作品が、その後わずか10年ほどで、作品名が19世紀初頭ドイツ人画家からレオナルド・ダ・ヴィンチに化ける、という余りにもドラマティック過ぎる作品。
観たかったなあ。そして、レオナルドっぽい、とか、レオナルドの真筆とは到底考えられないとか、適当なことを言いたかったなあ。
続く(かもしれない)。