新創開館5周年特別記念展
名画を切り、名器を継ぐ 美術にみる愛蔵のかたち
2014年9月20日~11月3日
根津美術館
古い美術品が、制作当初の形のまま今に受け継がれていることは稀。
経年劣化や何らかの理由による損傷へのやむを得ぬ対策であったり、売買や相続などの所有者移転を円滑に進めるためであったり、ときには個人や時代の趣向にあわせるためであったり、いろいろな理由で改変がなされている。
そのことを改めて認識させられる展覧会。
それは本展が対象とする日本・東洋美術のみならず、対象としていない西洋美術でも同様なのだ。
以下、私の好みから。
No.37≪鳥獣戯画断簡≫
甲・乙・丙・丁の4巻が現存する鳥獣人物戯画のうち、様々な動物が大躍動する描写で最もポピュラーと言える甲巻は、成立当初は2巻立て以上のそれ自体で独立した絵巻物だったと考えられているが、いろんな理由で部分が失われて、場面が繋ぎかえられて、今の形となっている。
本展では、もとは甲巻の一部だった(かもしれない)断簡が、前後期各1点展示される。
No.38≪地獄草紙断簡 火象地獄≫
絵・詞とも7段からなる絵巻物だったが、戦後(つまり遠くない昔)に各段ごとに分割された。
本展では、うち2点、前期に五島美術館蔵の「火象地獄」、後期にMIHO MUSEUM蔵の「解身地獄」が展示される。
No.42,43≪平治物語絵巻 六波羅合戦巻断簡≫
≪平治物語絵巻≫といえば、2012年にボストン美術館蔵の≪三条殿夜討巻≫、東博蔵の≪六波羅行幸巻≫、静嘉堂文庫美術館蔵の≪信西巻≫の現存する3点が、場所は違えど同時公開された。
本作は、同じセットとして制作された≪六波羅合戦巻≫の断簡。1944年に金沢市で発見された、破損した1巻から切り取った14図の小画面のうち4図(前期は2図)が展示される。
No.52-54≪佐竹本三十六歌仙絵≫
秋田佐竹侯に伝来したことから佐竹本と呼ばれる現存最古の三十六歌仙絵の巻物2巻は、高額すぎて一人で買えるコレクターは存在しないと判断され、1919年に各歌仙ごとに切断されて、抽選により売却された。
本展では、その際の評価額ベスト3であった、斎宮女御、小野小町、小大君の3点(全て女性なのが面白い)が、前期のみ同時展示される。
(西本願寺が女子大学創設の資金を作るために分割して売却した(1929年)というNo23-29の≪石山切≫しかり、当時はそういうことがブームだったのだろうか。)
No.93≪赤楽茶碗 銘 木守≫
関東大震災で罹災した茶碗、焼け跡から見つかった破片のひとつを組み込んで復元。
破片の色はそのまま残しているところが、趣深い。
No.98≪白磁壺≫
1995年に盗難に遭い、盗人が逃げる途中で、石畳の地面にたたきつけた。事件後、警察が証拠として採集した陶片をのちに修復し、奇跡的に以前と変わらぬ姿でよみがえらせた。
そうと知らなければ何も気づかない。修復技術に感心するばかり。