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「装いの力 - 異性装の日本史」展(渋谷区立松濤美術館)

2022年09月06日 | 展覧会(その他)
装いの力 - 異性装の日本史
2022年9月3日〜10月30日
渋谷区立松濤美術館
 
 
【本展の構成】
 
1章 日本のいにしえの異性装 
2章 戦う女性-女武者
3章 “美しい”男性-若衆
4章 江戸の異性装-歌舞伎
5章 江戸の異性装 物語の登場人物・祭礼
6章 近代における異性装
7章 現代における異性装
8章 現代から未来へと続く異性装
 
 
 以下、特に印象に残る出品作品。
 
 
1章 日本のいにしえの異性装
 
《新蔵人物語絵巻》
室町時代(16世紀)、サントリー美術館
 
 男装して宮仕えする少女の物語。
 
 「男装の姫君」という設定自体は、室町時代よりずっと古くから、平安時代後期の『とりかへばや』や平安時代末期の『有明の別れ』などで見られる。
 ただ、『とりかへばや』では天狗の呪い、『有明の別れ』では後継者問題と、外的な理由が存在したのに対し、『新蔵人物語絵巻』では、主人公が「あこはただ、男になりてぞ走り歩きたき」と内的な理由であることが新たな設定となっている。
 
 本展の前期では、絵巻前半の4段が公開。
 
 中流貴族の1男3女の4兄弟の物語。
 (放送中の朝ドラみたい。)
 
 長男は、蔵人として宮仕え。
 
 長女の大君は、出家して尼になる。
 当時、女性の身のままでは成仏できず修行などを経て男性の身になれば(「変成男子」)成仏できるという信仰があった。
 第2段の長女の剃髪した姿は、一種の異性装であるともいえる。
 
 次女の中君は、「播磨内侍」として宮中に出仕する。そして帝の寵愛を得て懐妊する。
 
 主人公である三女の三君は、「男になって走り歩きたい!」。
 その後(前期公開の場面の後)、「新蔵人」として男装で出仕することとなる。男装した姿は兄と瓜二つ。
 
 本展の後期では、絵巻の後半が公開されると思われる。
 
 なお、サントリー美術館が所蔵する絵巻は、2巻本の上巻にあたるらしい(下巻は現存しないのだろうか)。
 別の2巻本を大阪市立美術館が所蔵する。
 本年9月14日からサントリー美術館で開催される「美をつくし - 大阪市立美術館コレクション」展にて、その大阪市立美術館所蔵本が出品予定であるが、2巻とも出品されるのか未確認。
 
 
 
藤原房武《寛政遷幸之巻図》巻下
1792年、京都大学附属図書館
 
 天皇に仕える男装の女官「東豎子(あずまわらわ)」が描かれる。
 行幸の際、天皇の履物を運ぶため、男性の官人の服装をして馬に乗ってお供する。
 扇で顔を隠した姿で描かれることが一般的であるらしいが、本図では顔を隠していない。
 ただし、顔の目鼻口は描かれずのっぺらぼう(この女官だけでなく、登場人物全員が同様)。
 男装は行幸のお供の時のみのようで、通常の職務では女官の服装をしていたらしい。
 
 
 
4章 江戸の異性装-歌舞伎
 
《阿国歌舞伎草紙 第二段》
桃山時代(17世紀初頭)、大和文華館
 歌舞伎芝居の祖とされる出雲阿国。 
 男装の阿国が、女装した男が演じる茶屋のおかかと戯れる「茶屋遊び」の演目が描かれる。
 
 
 
6章 近代における異性装
 
落合芳幾《東京日々新聞813号》
1874年10月、江戸東京博物館
 
 文明開化の時代、欧米に恥ることなき文化をと、1872年の東京府を皮切りに、1873年に出された「各地方違式註違条例」をひな形として地域の実情に応じて加除などを行った違式註違条例が全国で施行される。
 この違式詿違条例では、異性装(女装・男装)が刑罰の対象とされていた。
 その後、刑法の1880年公布・1882年施行により、条例は廃止され、異性装は刑罰の対象から外れるが、それまでの間、刑罰を受けた者が多くいたらしい。
 この新聞記事は、戸籍法整備途上の時代の東京のある夫婦、妻が女装した男性であることがバレて、夫も承知のうえで結婚していたが、婚姻関係は強制的に無効とされ、妻の髪は短いザンギリ頭に切られてしまったとのこと。
 
 
 
橘小夢《澤村田之助》
1934年、弥生美術館
 
 美貌の女形とされる三代目澤村田之助(1845-78)の妖艶な姿。
 ドラマ「仁」で初めて名を知り、表面上の知識だけだが、壮絶な役者人生だったようだ。
 
 
 
丹羽阿樹子《街頭初見(セーラー服の三人)》
昭和戦前期(20世紀)、京都市美術館
 
 「セーラー服は異性装?」
 確かに発祥はイギリス海軍の制服。
 この日本画のセーラー服の女学生たちの姿は、ほのぼの。
 
 
 
7章 現代における異性装
 
手塚治虫《リボンの騎士(少女クラブ版)》
1953-56年『少女クラブ』連載、デジタル出力
 
池田理代子《ベルサイユのばら》
1972-73年『週刊マーガレット』連載、原画
 
江口寿史《ストップ!!ひばりくん!》
1981-83年『週刊ジャンプ』連載、デジタル出力
 
 異性装の漫画として、3点が取り上げられる。
 私的には、いずれもリアルタイムでは知らないが、手塚氏の作品はテレビアニメにて、江口氏の作品は遅れての単行本にて、親しんだ(ただ、池田氏の作品は読んだ・見たことはない)。
 私の年齢もあるが、江口氏の作品は強烈であった。
 
 第7章の展示品は、上記漫画3点を除くと、どうしても過激を感じる。
 第8章の展示品となると、森村氏の作品は自分なりに楽しむとして、難解だ。
 
 
 
【撮影コーナー】
 フラッシュをたいて撮影すると、顔が変わる。
 
 
 
 男性か女性か 人間を2つの性別によって区分する考え方は、私たちの中に深く根付いています。しかしながら、人々はこの性の境界を、身にまとう衣服によって越える試みをしばしば行ってきました。社会的・文化的な性別を区分するための記号である衣服をもって、生物学的に与えられた性とは異なる性となるのです。もちろん、異性装を実践した人物の性自認や性的指向は非常に多様なものであり、それらが異性装とともに必ずしも自動的に変化するということはありません。
 日本には、ヤマトタケルをはじめとした異性装をしたエピソードの伝わる神話・歴史上の人物たちが存在するほか、異性装の人物が登場する物語や、能・歌舞伎といった異性装の風俗・趣向を反映した芸能も古くから数多くあります。古代から近世を経て、西洋文化・思想の大きな影響下にあった近代日本社会では、一時期、異性装者を罰則の対象とする条例ができるなど変化がおとずれますが、それでも現代まで異性装が消えることはありませんでした。
 本展では、絵画、衣裳、写真、映像、漫画など様々な作品を通して各時代の異性装の様相を通覧し、性の越境を可能とする「装いの力」について考察します。特に現代では森村泰昌の作品やダムタイプのパフォーマンス記録映像の展示のほか、1989年12月に始まったドラァグ・クイーンによるエンターテインメントダンスパーティー"DIAMONDS ARE FOREVER"メンバーによる、本展のためのスペシャルなインスタレーションが展開されます。
 近年では、人間に固定の性別はなく、従って「男性/女性」という二者択一の規定を取り払い、多様な性のあり方について理解し、認め合うという動きがでてきたものの、実際には性別における二項対立の構図はいまだに様々な場面で目にするものでしょう。男らしさ、女らしさとは何なのか。日本における異性装の系譜の一端を辿ることで、それらがどのように表現されてきたのかということを探り、「異性装」という営みの「これまで」と「これから」について考えます。


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