夏目漱石の美術世界展
2013年5月14日~7月7日
東京藝術大学大学美術館
本展に対する一番の興味。
漱石をテーマにして、外国からどのような作品を借りることができたのか。
油彩画(所蔵者が明記されている作品)では、次の6点であった。
・ターナー「金枝」(テイト)
・ウォーターハウス「シャロットの女」(リーズ市立美)
・ミレイ「ロンドン塔幽閉中の王子」(ロンドン大学)
・リヴィエアー「ガダラの豚の奇跡」(テイト)
・ウォーターハウス「人魚」(王立芸術院)
・ブラングィン「蹄鉄工」(リーズ市立美)
リヴィエアーは、その名を初めて聞いた画家だが、その作品を見たのが今回の一番の収穫だったかもしれない。
以下の作品については、残念ながらパネル展示にとどまっている。
・ターナー「雨、蒸気、速度-グレート・ウェスタン鉄道」
・ドラローシュ「レディ・ジェーン・グレイの処刑」
・ドラローシュ「ロンドン塔の王子たち」
・ミレイ「オフィーリア」
漱石が英国滞在中に入手した展覧会カタログが何冊か展示されている。
東北大学付属図書館所蔵。100年以上前の冊子なのに、状態がよい。
そのなかで熱心に眺めてしまった1冊。
1902年に王立芸術院にて開催された「昔日の巨匠展」カタログ。
開かれた頁には、レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナリザ」の記載が。
漱石自身に拠るらしい、チェック印も残っている。
本展に、ルーブル美の「モナリザ」が展示されたのだろうか。
いや、よく読むと、個人蔵の「モナリザ」のようだ。
どんな展覧会だったか、帰宅後、ネットで調べる。
驚いたことに、当該展覧会の主催者である王立芸術院のHPにて、当該カタログの全ページを閲覧することができた。
開催期間は、1902年1月6日~3月15日。
出品総数293点。うち油彩画225点、素描68点。
油彩画は、いわゆるオールド・マスターの作品。イタリア、フランドル、オランダ、スペイン、フランス等幅広く、巨匠の名前が並んでいる。特に、クロード・ロランについてはスペシャル・コレクションが出品されたらしく、1室が与えられている。
素描は、全部がクロード・ロランの作品(と思ったら、最後に記載の4点がラファエロ)。
ほとんどが個人蔵の作品である。
モナリザについての記載は、次のとおり。
40 MONA LISA
EARL BROWNLOW Leonard da Vinci
"La Gioconda," daughter of Antonio Gherardini; m., 1495, Zanobi del Giocondo.
Half figure, standing to l., looking at the spectator, with hands crossed
in front of her; dark dress, open in front; her hair, on which is a veil,
falls over her shoulders; she is apparently standing on a balcony
or terrace, from which a hilly landscape is seen in the background.
Panel,25 1/2 by 20 in.
以上が情報のすべて。
図版はない。
なお、全作品が同一スタイルで紹介されている。
「EARL BROWNLOW」が所蔵者。やはり、個人蔵の作品。
本カタログには、作者はLeonard da Vinciとあり、それを留保するような記載はない。
当時はレオナルドの作品と考えられていたのだろうか。
それとも、所蔵者の言い分を(少なくともカタログ上では)そのまま受け入れていたのだろうか。
そして、漱石は、ルーブル美とは別の、レオナルド自身によるもう一つのモナリザだと思って眺めたのだろうか。
小生が、昔、東大の学生だった頃に調査致し、漱石はRoyal Academy of Artsで1902年に見た事、およびそれはブロンロー伯爵(Earl Brownlow)所有のものであると結論付けました。
それまでは、パリのルーブル美術館で見たものと推定されておりました。
現在それがリンカーン州のベルトン邸(Belton House)にあるかどうか、確認中です。
コメントありがとうございます。
漱石は、レオナルド本人による、ルーブル美術館とは別バージョンのモナリザを見たと認識していた、ととりあえず理解します。
どんな雰囲気の絵だったのか、見たいですね。