堅山南風「大震災実写図巻」と現代作家が描いたみほとけ
2019年8月28日〜12月1日
半蔵門ミュージアム
堅山南風(1887〜1980)。
熊本県出身の日本画家。横山大観に師事。文化勲章受章。
1923年9月1日。
上野公園内の竹の台陳列館、第10回再興院展が開幕。大観の全長40メートル強の絵巻《生々流転》の初の一般公開が話題をさらおうとしている。
南風は、同展に出席したのち、巣鴨の自宅に戻る。
11:58、地震発生。
師・大観の安否を心配し、自宅から上野の大観宅まで歩いて向かう。師の無事を確認する。巣鴨から上野まで往復するなか、惨状をいたるところで目にしたであろう。
2年後の1925年、「大震災実写図巻」を制作する。関東大震災の発生直後から復興に手が届き始めるまでの東京の状況を3巻・31図に描いた作品である。
本展では、南風の「大震災実写図巻」を3期に分けて展示する。
本絵巻の公開は、1981年の熊本県立美術館での展示以来、38年ぶりのことらしい。
上巻:8月28日〜 9月29日
中巻:10月2日〜10月27日
下巻:10月30日~12月1日
今回見た下巻は、被災後の混乱情勢や復興に手が届き始めた光景などが描かれた9図からなる。
「自警団」
日本刀、竹槍、鳶口あるいは警棒を持った自警団の男たち。
両手をあげた一人の男を、指差して問い詰める自警団の5人。
自警団の男たち8人は必死に追う、逃げる男2人を。
追いつかれたのだろうか、もう1人の男は、自警団の男たちに囲まれている。
「却火ノ跡」
焼け野原になった街。
棒で焼け跡を掘る男。
犠牲者を悼み手を合わせる男女。
画面中央に、「阿部良二柩」「阿部よし柩」を背負い歩く2人。
「災後雑観」
モノを売る露店。食事を提供する屋台には結構な客。自転車応急修理。そして、大震災絵葉書売りも。
満員の馬車が走る。「上野行」とあるので、乗合馬車だろう。
「焼金庫開扉受●」の幟をあげて道をゆく2人の男。
「剽盗横行」
暗闇。刃物を持った男。襲われる男。
「無情ノ雨」
空地に筵で屋根を作った仮小屋に野宿する罹災民たちに、無情の雨。
「復興ノ曙光」
始まる家屋の建て直し。
「寂しき月」
画面の3分の2を占める青に三日月。
白い屋根には猫が歩く。
屋根の下、窓に明かりが灯る部屋も。
「諸行無情」「大悲乃力」
しめくくりは「観世音菩薩の姿」。
下巻の前に、上巻の冒頭2場面「前兆」「大地震」も公開。
身につまされる場面の数々。南風が実際に目にした光景も多かったであろう。
「震災から2年が経過して尚、震災の惨状を描こうとすると、筆が渋って手を動かすことができない中にも「観世音菩薩」に護られ、漸く描き終えた」