内藤コレクション
写本 - いとも優雅なる中世の小宇宙
2024年6月11日〜8月25日
国立西洋美術館
2章「詩編集」より。
神の栄光を讃える150編の詩からなり、旧約聖書の一書を構成する「詩編」は、修道院や教会の礼拝から一般徒の私的な祈りまで、古来キリスト教徒の祈りの重要な要素をなしてきました。
この「詩編」のテキストに、聖歌や祈祷文、キリストの生涯の記念日や聖人の祝日を記した暦などをあわせて収録した祈祷書が詩編集です。
13世紀から14世紀中頃にかけて、イングランドやフランス、南ネーデルラント(現在のベルギーにおおよそ相当)などを中心に一般徒が私的な礼拝に用いる祈祷書として人気を博しました。
内藤コレクションには、13世紀後半の南ネーデルラントおよびフランス北部、14世紀末から15世紀初頭のイングランドに由来する雰葉を中心に20件ほどの作例が含まれます。
詩編集の写本における装飾の主要な要素は、「詩編」に含まれる詩の各節冒頭に置かれた節イニシャルです。
節イニシャルは2つのタイプが反復されることが多く、たとえばNo.22では、青の文字と赤のペン装飾、金の文字と青のペン装飾を組み合わせたイニシャルが交互に現れます。
No.22
《詩編集零葉》
フランス北部、あるいは南ネーデルランド
1250-60年頃
彩色、インク、金/獣皮紙
内藤コレクション
No.23
ヨハンネス・グラッシュ派の様式
《詩編集零葉》
フランス、パリ、1260-70年
彩色、インク、金/獣皮紙
内藤コレクション
No.24
《詩編集零葉》
フランス、パリ、1270-80年
彩色、インク、金/獣皮紙
内藤コレクション
No.25
《詩編集零葉》
フランス北部(?)、1270年代-80年代
彩色、インク、金/獣皮紙
内藤コレクション
No.26
《詩編集零葉》
南ネーデルランド、1250-60年頃
彩色、インク、金/獣皮紙
内藤コレクション
No.28、29、31
《詩編集零葉》
南ネーデルランド、おそらくヘント、1250-60年頃
彩色、インク、金/獣皮紙
内藤コレクション
それぞれの詩の始まりは、文字内部に物語場面や人物像などを伴う、より豪華な物語イニシャルによって示されることもありますが、それらのイメージはしばしば、詩句から得た着想を字義的に表現したものとなっています。
No.36の頬に皺を寄せて大きく口を開けたライオンの仮面を伴う物語イニシャルは、その分かりやすい例と言えるでしょう。
「詩編」第97編*冒頭に置かれたこのイニシャルは、その「新しい歌を主に向かって歌え」という詩句をふまえたものと考えられます。
*一般に使用された聖書であったウルガタ版聖書の数え方に基づく
No.36
《詩編集零葉》
イングランド、1380-90年
彩色、インク、金/獣皮紙
内藤コレクション