東京でカラヴァッジョ 日記

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トーマス・ジョーンズのナポリ風景画

2020年09月28日 | 西洋美術・各国美術
トーマス・ジョーンズ
《ナポリの壁》
1782年頃、11.4×16cm
ロンドン・ナショナル・ギャラリー
 
 
   トーマス・ジョーンズ(1742-1803)は、英国・ウェールズ出身の風景画家である。
 
   大地主の家に生まれる。聖職者となるため入った大学を退学して1761年から画家となる勉強を始める。その後「イギリス風景画の父」と呼ばれるようになるリチャード・ウィルソン(1713/14-82)に学ぶ。
 
   師ウィルソンについては、国立西洋美術館が1点《ティヴォリの風景(カプリッチョ)》を所蔵している。
   また、開催中のロンドン・ナショナル・ギャラリー展にも第6章「風景画とピクチャレスク」に1点《ディー川に架かるホルト橋》が出品されている。
   さすが「イギリス風景画の父」である。
 
リチャード・ウィルソン
《ディー川に架かるホルト橋》
1762年以前、148.5×193cm
ロンドン・ナショナル・ギャラリー
 
 
   ジョーンズも、師ウィルソンと同様に理想的風景画や歴史画の画家として主に活動したようである。しかしながら、今日では、彼はイタリアやウェールズを描いた油彩スケッチの画家として知られているという。
 
   世はグランドツアーの最盛期。ジョーンズも、英国の裕福な家庭の子弟として当然のことのように、1776年にイタリアへの画家修業の旅に出る。最初はローマに、その後は専らナポリに滞在(1778、1780-83)し、1783年に帰国する。その間現地でデンマーク人女性と知り合い、娘2人をもうけているようだ(帰国後に結婚)。
 
   このナポリ時代に描いた油彩スケッチが凄い。当時一大主流であった理想的風景画やピクチャレスクな絵画とは全く異質な風景画である。
 
 
トーマス・ジョーンズ
《ナポリの家》
1782年、25.5×38.2cm
大英博物館
 
 
   なんの変哲もない風景。平凡な建物、壁、空、植物などが描かれているだけ。人物も登場しない。南国の光のもと、無人で静かな、しかし廃墟ではなく人が生活する街の一風景を直裁的に描いている。そんな主題は、現代では違和感はないが、当時の画家が選ぶものではなかった。
   ナショナルギャラリーでは、ジョーンズ作品(3点所蔵)を、「ヨーロッパの19世紀風景画」の部屋に、半世紀以上後のコロー(1796-1875)やその同時代のフランス等の画家たちの風景画とともに展示しているようであるが、確かに彼らの風景画を想起させる。
 
 
トーマス・ジョーンズ
《ナポリの風景》
1782年、14.2×21.6cm
ウェールズ国立美術館
 
 
   この路線は画家の活動の本筋ではなかったのかもしれない。サイズが小さいので、習作の位置づけであったのかもしれない。
 
   非常に気になる作品群。実見してみたいもの。
   しかし、冒頭のLNG所蔵作品《ナポリの壁》、壁の描き込みやバルコニーに干した洗濯物の描写が印象的である、は、今回の展覧会の出品作ではない。同作品は、現在LNGで展示中である。

 



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