隠れ家-かけらの世界-

今日感じたこと、出会った人のこと、好きなこと、忘れたくないこと…。気ままに残していけたらいい。

役者たちに、「ブラボー!」です~映画「長い散歩」~

2007年11月04日 14時02分56秒 | 映画レビュー
■長い散歩 (2006年作)

○2006モントリオール世界映画祭 <グランプリ><国際批評家連盟賞><エキュメニック賞>

■監督  奥田瑛ニ
■出演  緒形拳、高岡早紀、杉浦花菜、松田翔太、木内みどり、原田貴和子、大橋智和、山田昌、津川雅彦


 緒形拳さんへの私の思いは、ココを見ていただけばと思いますが、この映画も、彼が主演と知って、ああ、絶対に!と。そんな経過がある。

▼役者には100%満足です
 最初にこういう感想を書いてしまうのもどうかな、と思うんだけど、俳優たちは、私の目には本当にステキだった。それぞれがそこで苦しんだりもがいたりしているさまがそのまま私の中に飛んできて、痛かったりキツかったり、そしてどこかで爽やかだったり。
 サチ役の杉浦花菜ちゃんは、何を感じて、あるいは何を感じないで、最悪の生活を強いられているサチを私に教えてくれたんだろうか。万引きで手に入れたかわいい絵本を隠れ家で見入るようす、悲しい余韻を残す甲高い悲鳴を上げて走って走っていく姿。それがあるから、大人たちの演技がより深いものになっていく。
 愛を知らずに子どもをえて、残酷なまでの仕打ちをする母親役の高岡早紀。最近、ちょっとだけテレビドラマで人妻役の彼女を30分くらい見る機会があったのだけど、同じ役者?とみまがうほどの熱さだったような。憎々しさとくだらなさと、それでもどこかに哀れなものも漂わせて、ひょっとすると私たちの中にある当たり前のものを凝縮させた愚かさの象徴を見せているのかな。
 旅の途中で出会った青年ワタル役の松田翔太。いかにも今風な青年が実は「生き場所」ではなく「死に場所」を探していたんだと知ったあとにも、なにも不自然なものを感じさせなかったのは、ひょっとすると彼の中にある、うまく言えないけど、根っこに染みついている「病的な」雰囲気なのかもしれない。サチの心を最初に解き開いたのは、実はこの青年だったのかもしれないのだ。
 そして、サチを思い出の場所につれていこうと、「長い散歩」にでた安田役の緒形拳。彼はどの役にも100%自分を変形?させて融解させていくと思うのだけれど、ここでもその作業を私に心地よく見せてくれる。
 逃げるサチに最初は追いつけなかった彼は、必死でジョギングやトレーニングをして、みるみる体力をつけていく。そのあたりのさりげないチャーミングなしぐさ、慣れない子どもとの旅に戸惑う表情、そして自分の無力を思い知るときの無念さ、伝わらぬ思いに苛立つようす…、それがこの映画の真ん中をすーっと通っていて、私を安心させてくれる。
 この人がいなかったら、この役は誰が?なんて、そういうことをいろいろ想像して、ちょっとおもしろくもあったのだが。

▼使い古し?
 ここからは、私の勝手なわがまま感想。
 たぶん、あまりにも期待しすぎちゃった? そうだと思う。だってコピーにしてもコマーシャル映像にしてもテーマにしても、すべて私の好みに合致してしまったんだから。
 老人と女の子の二人のシーンだけは、見ているだけで気持ちが洗われたし、過去の自分の過ちをひきずっている安田の姿がサチへの深い思い入れをきちんと納得させて伏線になっていることはさすがだと思ったんだけど。
 まず第一に、これが誘拐なの?と疑問を感じ始めた若い刑事がその思いを張り込みの車の中で先輩刑事(奥田)に吐露するシーン。
 先輩刑事は「誘拐は誘拐だ」と断言したあとで、「俺もさっき天使の羽をつけて走っているあの子を見たとき、このまま逃げてくれよ、と思ったよ」と心情を語る。そのあとで、「今の世の中には、安田のような人間が必要なのかもしれない。安田自身にとっても」というようなことを述べるんだけど、そこで、ああ…、と私は深いため息。
 ここはすべて不要なセリフに感じたのは私だけかなあ。彼の二人への思いは、発見しながらそれを報告せずに、その前の電話での「必ず出頭するから少しだけ時間をくれ」と言った安田の言葉を信じていることは明らかで。そのあたりは観ている人の想像力を信じてほしいなあ、と。安田という人物の社会への貢献度(笑)なんて、言葉で語ってほしくはなかった。興醒めでした。
 それと、ラストシーン。出所した安田の目に一瞬サチの姿が見えて、でもそれが幻影だと気づく。そこも、なんとなく私のような凡庸な人間にも十分想像できる幕切れで、監督の「才気」ってやつを見せてほしかったかな、と思ったのだ。
 原作を読んでいないのでわからないけど、ひょっとしたら原作に忠実だったのかな。でもラストシーンって大事でしょ? あの風景は、いろんな映画やドラマで使い古しのように思えて、ちょっと「あれれ…」な感じだったのだ。



 映画祭のグランプリ受賞とか、そういうくだらない権威に実は弱い私で(恥)、そういうものには過大な期待をしちゃうとこがあるんですよね。これはぜひ改めたいけど、なかなか難しい。
 それに、宣伝効果っていうか、ある意味で「宣伝逆効果」なのかもしれないけど、あまりに心地よく宣伝されちゃって、これも勝手に想像で作り上げちゃう。で、観て、その想像をはずれると、落胆の度合いが重症になってしまう。
 ホント、恥ずかしいのはこっちのほうかも。
 そんな先入観なしにこの映画に出会えたら、どうだったんでしょうね。緒形ファン、という視線だけで、このDVDをレンタルしたとしたら…。
 ま、もうその答えは絶対に出ないんだけど。
 「長い散歩」、決して駄作だと言っているのではないですよ。丁寧につくられた誠実な作品です。

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