隠れ家-かけらの世界-

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卒業ソングだなんて~スピッツのいかがわしさ

2006年05月29日 01時48分09秒 | スピッツ
■最初は浮いていた?
 はじめてスピッツを目にしたとき、彼らは怒涛のバンドブームのなかにいた。たぶんそう。私自身は単なる洋楽ロックファンで、特に邦楽に興味はなかったし、J-POPという言い方もまだなかった? だからあとで当時の音楽シーンを振り返るメディアの情報などで、ああ、なるほど、そういう時代だったのか、と知ったわけだが。
 スカンクとかKUSUKUSUなど、人気のあるかっこいいバンドの中にあって、スピッツは不思議な匂いを発しつつ、私の前に現れた。特に「ここがいい!」と心を強く打つものがあったわけではないけれど、なぜか次も見てみたいとそんなふうに思ったのだ。そのときもいくつかのバンドが出演していたが、終わったあとで特に印象の残ったバンドはなく、唯一「スピッツ」という名前だけが頭にあったのは、なぜなんだろう。
 当時スピッツは浮いていた、という人もいる(本人たちもそんな発言をしていたかもしれない)。確かに、客を煽るバンドの勢いの中で、煽るでもなく、毒を吐くわけでもなく、かといって媚びを売るでもない(媚を売るロックバンドはいないかー)。特に何かを伝えようとか、そんな意志の感じられないバンドはちょっと珍しかったかも。そうそう、自己アピールがない、そんな感じかな。でも特に斜に構えているわけじゃないから、浮いていることも意図があってのことではなく、なぜかそうなってしまう、そんな流れだったのかもしれない。

■見え隠れする「いかがわしさ」
 それでもソノシート(懐かしい!)やテープで聴くスピッツの歌詞には、たしかにほかのバンドにはない独特の匂いがあった。それはひょっとすると今も変わらないかもしれない。 
 スピッツをちょっとかじった人は、あの透明感のあるボーカル、切なくかわいい歌詞、稀に見る美しいメロディーに心奪われるか、あるいは「えっ、これがロックかよ」という反応を示すかもしれない。そんなのは自由だ。バンドとの出会いなんて、危ういものだし、微妙なすれ違いがあって当然。きっと私は、その爽やかさのかげにある「いかがわしさ」にひかれてしまったんだな。それがなければきっと、スピッツは私の中では泡のように消えてしまっただろう。
その「いかがわしさ」は直接的な言葉で伝えられるわけではない。そういうきわどい単語で危険な雰囲気を演出するバンドは結構多いけれど、スピッツはちがう。表面のさりげなさで満足していると、本質が見えてこないところがおもしろいバンドだ。聴き手が気づかなければそれでいいよ、そういうふうに解釈したいなら勝手にどうぞ…、そんなふうに突き放しているところが心地よい。押しつけもしない代わりに、親切に導くこともしない。それがいい。
 銀のボディーを震わせて発射をまつ「僕はジェット」には、青い少年の性の戸惑いが見え隠れしているし、「365号線のうた」の男の子はかわいい顔をしてどこかにもぐりこもうとしている。ただそれだけで何の説明もないけれど、私の頭の中にはいろんな風景が映し出されて、なごんだり、顔が赤らんだり、ドキドキしたりする。そういう時間を私にくれる音たちなのだ。

■家族団らんのテレビからラブシーンが…
 それはデビューしてからも変わらない。世間の反応を得られない(つまりチャートに登場しない)時期が続き、音楽雑誌の編集者や古くからのファンには「いいアルバムなのに、なんで売れないの?」という戸惑いがあったようだけれど、でもそれは「いつか」が必ずある戸惑いのように感じられて、私は楽しい時間だった。だって、あんなきれいな声と疾走感のあるバンドサウンドで「上質ないかがわしさ」を表現するバンドが受け入れられないわけないじゃん…、そんなふうに信じて疑わなかったのだ。この見事な楽観主義(笑)。
 例をあげればキリがないけれど、例えば「惑星のかけら」(1993年アルバム「惑星のかけら」収録)。「骨のずいまで 愛してよ」と歌謡曲チックに歌うかげで、「僕」は「午後の悪ふざけ」の相手のスカートを盗み、鏡の前でそのスカートで「オーロラのダンスを」を踊り「寒い」時間を過ごしたりするのだ。「はかなげな笑顔でつま先から」溶けたりするかわいいエロを歌ったり、あげくの果ては「僕に傷ついて」なんてすがったりする。「僕に傷ついて」なんてフレーズ、もうこりゃすごいわー、と当時のけぞったものだ。友人に「ねえねえ、この子は女の子のスカートを鏡の前で合わせてみただけだよね。まさか履いたりしてないよね」と言ったら、「履いたに決まってるじゃん。マサムネの書く詞なんて、そういうもんだよ」とこともなげに言われたものだ。ちなみにその友人は「スピッツは詐欺師だからキライ」と言いつつ、全アルバムを持っている。


 
最近は大人になったけれど、でも「いかがわしさ」はちゃんとスピッツの隠し味だ。これがなければ、スピッツではない。
 「稲穂」(2004年アルバム「色色衣」収録) では、「はじめてむりやり かわいいハチに刺された」なんて、SなんだかMなんだかわからない歌詞でドキッとさせられる。「むりやり→刺された」この副詞と受け身表現の文法的誤りをあえて使ってしまう草野マサムネの言葉遊びはすごい。



 そして「ローテクロマンティカ」(2003年アルバム「三日月ロック」収録)では、どんなシチュエーションなのか、二人は「足でさわりあっている」し、「僕」は「ふんずけてもいいよ」なんて言う。ふんずけても…って



 「あまったれクリーチャー」(2005年アルバム「スーベニア」収録)では、「キミの手でもみくちゃに」されちゃう僕が「新しい生き物」に生まれ変わる望みを、こんな負の望み(笑)をかっこいいロックで走ってしまう。


 だから、「チェリー」が教科書に載ったり(よく聴いてください。「チェリー」も私にはいかがわしい)、卒業式で「空も飛べるはず」を歌ったりされちゃうと(別にかまわないけど)、なんだか家族とテレビを見ていたら思いがけずラブシーンが流れて、いたたまれない雰囲気になるような、あんな気持ちになるのだ。
「意外と…だよね」、そういう感想がとても似合うバンド。何年たっても、私は「意外と…だな」そんなふうに彼らを見つめている。きっとこれからも。

すみません。長々とおつきあい、ありがとう。スピッツを語りだすと止まらなくなります。だから、あんまり取り上げたくない(笑)。
でも「夜を駆ける」「夢追い虫」「タンポポ」「プール」「名前をつけてやる」…、ああ、語りたい歌が山ほどある。もうダメだ。

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2 コメント

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はじめまして☆こんばんは (あまいて)
2006-06-10 19:38:58
すごいです。すごいです。すごいです。

私もスピッツ大好きなんですが、ここまでマサムネさんの書く世界を理解?(解釈?)出来るなんて・・・

感動しましたぁ~



本人も甘いだけじゃなく辛いだけじゃなく「あまじょっぱい」みたいな、スイカに塩かけたみたいな・・・

とか言ってる通り、せつなさわやか~なスピッツじゃないですよねー
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いいですよね~。 (かけら)
2006-06-10 23:57:56
いえいえ、解釈だなんてとんでもない。

勝手に妄想してるだけです。

スピッツって、好きな曲が人によって結構バラバラってとこがいいですよね。

それだけ、いい曲がたくさんあるってこと?



来てくださって、ありがとうございます。

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