秋の七草の咲き乱れる野路を散策していて、大木の繁る薄暗い場所にさしかかった道の傍らに珍しい花を見つけた。特別に華やかで美しかったのでと言う訳でもない。「おっ、これはお初にお目にかかる花ではないの?」と足を止めた。記憶の回路を辿ってみるが今までに出会った記録が保存されてないようだし、もちろん名前など皆目分からない。
花は一つしかない。地上から30cmほどつるが登っていた。花は悲しいかなうつむいてカメラを見ようとしない。そのうち、この珍しい被写体をシャッターに何とか納めたいと思うあせる気持ちが災いして私は大きな罪を犯してしまった。花を付けたつツルがポッキンと折れてしまったのだ。
気の毒に折れてしまったツル花は無理やりカメラ目線にされたうえに、ストロボに顔をあらわにさせられてしまった。
調べてみると彼女の名前は『ツル人参』と呼ばれ、朝鮮人参の数倍も優れものらしい。貴重なだけに取り尽くされ絶滅に近い植物だという。
薄暗い森へと隠れ住んでやっと芽をだし一つ花を付けたというのに、気の毒なことをしてしまった。残った宿根が無事に芽吹くことを願うばかり。