おねがい体質

最近、新聞などのいろいろな記事を読むと「権威をたたくには実名で書かんくちゃだめだろ、オラオラ」と言われているような気がしてなりません。ん~~~実名か。

私が書けるのはこの程度。

以前、と言っても十年近く前になるでしょうか。当時在籍していた絵本の会で流行った言葉がありました。「N先生にお願いして」というフレーズです。

誰が言い出したのかよく分かりませんが、何か困ったことがあったらN先生にお願いしましょ、という意味で使われたようです。N先生は、もちろん会員ではなく、外部の方です。耳にした言葉をオウムのように同じフレーズで繰り返す習慣がある(今はどうだかわかりませんが)会なので、誰か「もっとエライ先生」の仰ったことを口真似しているんだろうと思いました。そう思いながら、私は「何か困ることがあるんだろうか」「困ったら自分で何とかすればいいのに」とも思っていましたので口にすることはありませんでしたが、意識の底に刷り込まれたようです。行政におねがいごとをする時は、しかるべき先生を通さなくちゃいけないような気持ちになりました。
 やがて新潟日報にそのN先生が写真入で紹介されました。どこかから引っ越してこられたこと、以前は子ども文庫をやっていたこと。写真は、ぬいぐるみの飾られた窓を背景に絵本を広げたカメラ目線でした。でも、「今、文庫をやっているのかいないのか」は、何遍記事を読み返してもわかりませんでした。

 やがて、クロスパルにいがたが出来て、紙芝居講座をする・費用を捻出する、という段になって、私は当時の中央公民館職員に向かってついこう言ったのです。「誰か先生にお願いすればいいんですか?」
もちろん職員は首を横に振って憤懣やるかたないといった表情で「自分でやるんじゃ」といいました。なんだか、そこで私は長い眠りから目が覚めたような気がしました。

 今、その写真を思い出しながら、そのおねがい体質についていろいろ考えています。
どうして新潟市に引っ越してきたばかりの人がこうして大きく新聞に紹介されたんだろう、とか、どうしていきなり新潟大学の非常勤講師になったんだろう、まあ、どなたかの推薦があったんだろうが、今は家庭文庫はやっていないんだよね、とか、引っ越してきたばかりの人にどうして願い事を叶えてもらおうとするんだろう、とかね。
家庭文庫の内実など、スタッフしかわからないのに、どうして図書館や新潟日報は「家庭文庫をやっている」というだけで崇拝の対象にするんだろう、とか、
そして去年かおととしか忘れましたが、良書主義の絵本の施設に大金を投じる気分になるんだろう。とか。経営コンサルタントという職業もあるだろうにね。

 県外の皆様にはよく分からないかも知れませんが、新潟の良書主義者は、先だって新潟日報の一面の日報抄に肩書つきの実名で出ました。ある意味、的確な情報公開です。おねがい目的の来訪者は多いことでしょうが、そのおねがいの頻度が多いのに目的が達成されないというのは、何か他に問題があるんではないかと推測することもなかったんだろうか。
 それを来訪者に諭した方がいいかもしれませんね。かつて沼垂図書館も、あの市立幼稚園の絵本の部屋も、良書オンパレードだったから子どもに見放されたということを理解できないのだと思います。

 いつだったか「本の世界にいざなう」というキャッチフレーズがPRされました。東京から来た講師が言い出したことですね。それを聞いて私は「こりゃだめだ」と思ったのです。いまだに自分たちの世界に子どもをさそうことしか考えていない。そうじゃなくて、「子どもにいざなわれる器量を大人が持つ」事のほうが大事でしょ。研究するということは、兎にも角にも相手の領分に興味を持つことから始めるわけだから、これでは研究者として失格だと思う。

 それでも、子どもに関わってくださるのは大変ステキなことですね。それから、子どもに関わるためには、重要なポイントがあります。 現役を離れたのだから、肩書を捨てること。それから自分の目線がすべての子どもの目線と同じだと思わないこと。子どもも、大人と同じ、千差万別。
 事務j手続き上、元職でも肩書を書かなくちゃいけない場合もあるでしょうが、肩書で自分の思想を広めようというのは、野暮です。だいたい、本当に先生だった人ってのは、自分で自分のこと「先生だった」って言わないもんなんだよね。まあ、その筋に知り合いが多いのは判りますが。

 春、会社や学校組織を離れて社会に出られる方々も多いでしょう。「先生だった、司書だった」と自己紹介をして、周囲はもちろんあたたかく迎えてくださるでしょう。ただ、ご注意召されよ、相手に目を丸くされたら、相手は肩書に驚いているのではなく、「先生だと周囲から尊敬されたい人がまだいるんだ」と驚いているのですから。

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