薄物時期の最初の着物は
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亜麻色の小千谷縮に、薄グリーンの半幅。
半衿も薄グリーンの刺繍の麻で。
帯留めはモレッティの千鳥ちゃん。
この装いで、夕方から品川区のクリニックへ取材に出かけた。
(…というわけで、仕事仕様のため、カテゴリーは「オンタイム」にしておきます)
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少し早めに家を出て、
乗り換え駅の横浜で開催中の「生誕100周年記念 中原淳一展」へ。
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そごう美術館で7月15日(祝)まで。
蕗谷虹児や中原淳一の作品に興味を持つようになったのは
染色家の佐藤節子先生の影響だ。
可愛いもの、きれいなものを見る目を養うヒントの一つが、
戦前戦後の少女向け雑誌にあるような気がして……。
中原淳一展は、実は以前にも一度都内で観ていて、
そのときは戦時中や戦争直後に、
乏しい資源を活用していかにオシャレを楽しむか、という工夫の数々が目を引いた。
(着物を二部式にして少ない布で創る、とか、短いスカートを長くする工夫、とか)
今回の展示にはそれらも含まれてはいたが、
どちらかというと戦後しばらく経った、1950年代終わり~晩年の作品に
スポットが当たっていたように思う。
―「戦争を知らない子供たち」に、レディーのなんたるかを教えたい ―
私は今回の展示を通して、そんなメッセージを感じ取った。
左は1968年に描かれた挿絵。
右は、ケイタマルヤマ氏がそれを再現したドレス。
(本展示は、数カ所撮影OKのポイントがあり、ここはその一つ。以下も同じ)
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こちらもデザイン画をもとに再現した
夏のワンピース(これらはケイタマルヤヤマ氏ではなかったと思います)。
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そしてブラウスが何着も。
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今でも十分、エレガント志向の女性に支持されるスタイルだ。
思うに中原氏の頭の中には「女性を美しく魅せる」ゆるぎない原則のようなものが
いつもあったのではないだろうか。
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今回、特に印象に残ったのは、
単に可愛い少女の挿絵やファッション画にとどまらず、
雑誌を通じて「女性のたしなみ」も発信していったことが
よくわかる展示の数々。
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これは雑誌の挿絵をもとに再現された子ども部屋。
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本棚には、国内外の名作が。
(話は脱線しますが、先日、NHKの2クール先の朝ドラの制作発表で、
ヒロイン役の女優(20代半ば)が
『赤毛のアン』を読んだことがない、と発言したことに
私はかなり驚いています。『アンの青春』以降はともかく、
『赤毛のアン』は教養として、中学生くらいまでの必読書のように思っていたので……。
時代が変わってしまったのでしょうか)
そのほか、
立ち居振る舞い、掃除や洗濯のしかた、収納ワザ、インテリアの工夫などが、
雑誌内の「たしなみせくしょん」というコーナーで展開されていたそう。
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最後に、会場で求めた2枚の絵葉書をご紹介。
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こちらは絶筆となった「蝶々夫人」、1976年。
中原氏63歳の絵で、表情に憂いはあるが、背景も着物も瑞々しい色彩。
生涯、ご自身が考える「美しさの哲学」は健在だったことをうかがわせる。
そして……
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1950年、雑誌『ひまわり』に掲載された言葉と挿絵。
決して表面的な
「可愛い絵」や「オシャレなファッション」や「卓越したデザイン」
にとどまらず、
内面もふるまいも、ライフスタイルも美しくあってこそ、真のレディーであり、
中原氏はそのことを、生涯発信し続けていったんだな、と思い知る。
先導者であり、啓蒙家であり、クリエイターであり、
そしていつでも、女性の味方。
今、ファッション誌やTV、ネット等の各種メディアには
アイコンやカリスマと呼ばれる人が次から次へと登場しているが、
世代交代や流行の移り変わりにのみこまれず、長くその地位にいる人は
果たして、どのくらいいるのだろうか。
※そごう美術館内の公式サイトはコチラ