神奈川絵美の「えみごのみ」

貴婦人の恋愛模様 - 七夕に想う -

この日は夜から、国立がんセンターでの研修。

今年の初宮古。まだそれほど暑くないけれど……。
琉球絣風の綿の帯を締めて。
半衿は鈴木紀絵さんの型絵染め。


青いトンボ玉は、「夏」の象徴。
バラのような濃ピンクのアクセントが入っている。
頂き物の三分紐に合わせて。

--------------

夜の研修のためだけに出かけるのも…と思い、
まず乃木坂へ。

何かと話題の、この展示を観てみた。

観てみた……というのは、
実はあまり関心は高くなく、
まあ、評判も良いみたいだし、日本初公開というし、
都心へ出た“ついで”に、という程度の気分だった。


ところが。


思わぬところで、ショックというか、考えさせられることになろうとは。



本展示の目玉は、縦横数メートル、見上げるほど大きな6枚のタピスリー。
うち5枚は人間の五感(味覚、聴覚etc.)をあらわしていると解釈されている。
上は、貴婦人が砂糖菓子をつまんで、鳥に食べさせようとしている作品で、
「味覚」の象徴と言われているらしい。

下絵や織物の完成度はため息をつくほど素晴らしく、
この写真では不鮮明だが、千花模様(ミルフルール)はホントに、
たくさんの種類の花が織り出されており、創り手の観察眼、表現力に恐れ入った。


でも、それ以上に気になったのは……

宮廷風恋愛

……という文字が、解説文のあちこちに踊っていたこと。


平たくいうと、
中世の西欧(おもにフランス)の騎士と貴婦人との恋愛様式だそうだが、
美術・工芸品におけるその表現は、あまり穏やかなものではない。
一角獣は騎士を、女性は貴婦人を、そして一角獣を狙う矢は
   一途な愛を表現している
とか、
男性にはめられた足枷が、貴婦人の騎士への愛を象徴しているとか※


中世はだいたい5-15世紀。日本は奈良-室町時代?
例えば日本の平安時代の恋愛といえば

女性は顔を隠し、男性は外から影だけを見ているとか
手紙や和歌のやりとりを通して、男性は女性の容姿よりも教養の高さに
  思いを寄せる
とか

かたや「矢、足枷」
    かたや「影、手紙」


どうなの? この表現の違い。。。


そして、どちらも現代には馴染みにくいスタイルとはいえ、
どっち?と言われれば、迷わず日本の平安時代の方が、
心理的に受け入れやすい。
(それは今までの古典等からの学びが影響しているからだとは思うけれど)


私は、(宮廷風恋愛の様式が生まれた)フランス文化について
殆ど知識がないため、
恋愛の対象は「既婚」女性であり、夫婦間にはありえない。
なんてことにも、びっくりした。
        ↓
宮廷風恋愛とは何か、ネット検索するといくつか出てきます。例えばコチラ



この絵は、まだ解釈が定まらない6枚目のタピスリーの一部で、
侍女が持っている小箱も、中世西欧における恋愛の象徴なんだそう。
カギが男性、錠が女性。
まあ何となくわかるけれど、頑丈そうな造りの箱を見ていると、
閉じ込めるとか、がんじがらめにするとか、そんなあまり優雅ではないワードも
連想される。


……。


こんなことを考えているうち、
年に1度しか会わない織姫と彦星が、何だかとても平和な関係に思えてきた。




※タピスリーの解説ではなく、関連展示である小箱の解説にあったもの。
 タピスリーの解説や見どころは、「貴婦人と一角獣」展の公式サイトに載っています。

コメント一覧

神奈川絵美
amethystさんへ
こんにちは
いやー毎日暑いですね。着物を着るのが苦行になってしまいます(笑)。

花に小動物、キュートでしたよね。
私はペキニーズみたいな長毛のワンちゃんが
お気に入りでした。
結局、一角獣というのは(男性側の)恋愛の象徴なんでしょうか。中世美術をもう少し、勉強してみたくなりました
amethyst
こんにちは~
宮古でお出かけになったんですね。
そして絵美さんは宮廷風恋愛に
着目されたんですね~なるほどです。
私はというと様々な小花模様の描きとか
ユニコーンとおさるさん、うさぎなど。
そしてどの貴婦人が一番可愛いか、など
タベストリーばかりグルグルみてました。笑

最近の暑さに、この夏も着物は
厳しそう。。。
神奈川絵美
風子さんへ
こんにちは~
この展示を観に行った日は暑くなかったのですが、
今、いきなり猛暑になりましたね(笑)
下は筒袖、着たいくらいです。

この展示、上で環さんもお書きになっていましたが、
小動物と花が可愛かったです~。
風子
こんにちは~~~

暑くなりましたね、そういう日々には やはりお召しのような上布が一番涼やか、、、、

この展示のことは存じあげないのですが、読ませていただいて興味深く思いました。
神奈川絵美
セージグリーンさんへ
こんにちは
本場、クリュニーでご覧になったのですね
私はこの美術館に訪れたことはないのですが、
(フランス自体、行ったことがなく)
西欧の古くからの美術館って重厚な存在感があり、
このタピスリーもさぞ、建物に馴染んでいたことでしょうね。

>中世では、女性の貞操は固く守るべき
ふむう、勉強になります。
いわゆる宮廷風恋愛は、中世の上流階級の「雅な愛」
だったそうですが、騎士階級ではそんなことは
許されなかったのでしょうね。
確かに日本でもフリーダムな恋愛の形はあったのですが、どちらかというと男性主導のスタイルで、
フランスの宮廷風-の方は(騎士が)女性をたてるルールが徹底されていたところが、興味深いです。
セージグリーン
懐かしい中世の美
その昔、パリ滞在中に宿泊先のホテルに近いソルボンヌ大学界隈で偶然に見つけた、小さな美術館にふらりと入ったのが、クリュニー美術館でした。
ひっそりとした館内で、貴婦人と一角獣のタペストリーの美しさに魅了され、ハガキや複製画を何枚か求めましたので、今回の展覧会は懐かしい思いがします。
一角獣、ライオン、鏡、小箱と鍵など、、、中世やルネサンスの題材は寓意によるものが多いので、この一連の作品もその解釈によって、想像力をかき立てられますね。
中世では、女性の貞操は固く守るべき物とされ、戦いにかり出された夫の留守中に不倫でもしようものなら、いかなる残虐な罰も甘んじて受けなければならなかったことを、塩野七生さんの著作で知りました。
時代が下り、ルイ王朝の奥方達の自由恋愛については、こうも変わるのかと驚きました。
日本でも、、、万葉集、源氏と、自由で大らかな恋愛が本流だった時代が長いですね。
神奈川絵美
とうこさんへ
東京でお仕事ですか、お疲れ様です
アートを通して、思想や文化、生活を垣間見られるのは
視野が広がっていいことですよね。
夏着物、ぜひぜひ! 私もできるだけ着たいですが、
この暑さとどう折り合いをつけるかが問題です
とうこ
ちょうど、お上りさんの最中です。
仕事終わったら行ってみよう!(気力が残っていれば…)芸術は、その国の生活も表しているので面白いですね。
宮古の青、見た目が涼やかで素敵です。
夏着物着たい!です。
神奈川絵美
環さんへ
こんにちは
うふ、私、環さんが以前入れてくださったコメントを読んで、
私も行ってみようかなーって思ったんですよ

花の種類、すごく多かったですよね。
あの、種類別のボードの展示に見入ってしまいました。
そして個人的には犬がねー可愛くて
「味覚」の貴婦人の足元で見上げているのとか、
6枚目でクッションに乗っているのとか。
確かに花×小動物、帯には絶好のモチーフかもですね。
貴婦人も一角獣もあまり目に入らず…
こんにちは。
私もあまり興味なかったのですが
「今年の目玉」だとか「奇跡の来日」だとか聞いて行ってみました。
結果。私が夢中になったのはミルフルールと小動物たちです。
花の種類まではっきりわかるのにビックリ!
そして兎、狐、イタチ?や鳥たちと小花の相性って抜群です。こんなテイストの帯、捨松さんで織ってくれないかしら、と思い始めたら、もう帯にしか見えなくて(笑)
でも綴れだったら絶対大台いくので買えないでーす(涙)
神奈川絵美
朋百香さんへ
こんにちは
フランスや北欧では、「(法律上の)結婚より出産が優先される」そうですね。なので子どもアリの同棲や事実婚が多いとか。
結婚の考え方や価値観は、日本と欧米の精神的な違い位ならただのカルチャーショックで済みますが、
アフリカ、キルギス、イスラム圏で起こっていることを見ると暗澹たる気持ちになります。

中世の恋愛の在り方は、また別の話として、
「宮廷風恋愛」ってストイックなのか奔放なのか、
よくわかりませんねー(笑)
私、フランス文学や中世美術には疎いので
(フランス語はABCすら判らず
それらの知識がもっとあれば、こうしたものの
精神性も理解できるのかも知れませんが……。
朋百香
http://www.tomoko-358.com
絵美さま
私もこの間、何かのテレビで見ましたよ、
貴婦人の愛人の話。しかも夫公認とか・・・
日本では考えられない話ですよね。
現代でもフランスでは、結婚に対する考え方が
随分、日本とは違うみたいです。
男と女の間もお国柄によって、全く違うのですねぇ。
やっぱり私は日本人で良かったと思いますが・・・。
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