神奈川絵美の「えみごのみ」

痛恨の取材

今週の始め、取材のため名古屋へ向かった。

出張時は八寸か、許されるなら半幅が断然ラク!
というわけで、今回はスーツ着物+アーガイル柄の八寸帯に。
これも“仕事コーデ”のラインナップに入れておこう


ランチは味噌煮込みうどんの有名店で。
    ↓

つゆはとーっても美味しかったけど、うどんが硬いよ~


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(ここからはシリアスな病気の話題になります。ご興味のない方はとばしてください)


さて、この日の取材テーマは「脳腫瘍」。
悪性のものは、体にできるがんとは違う性質、特徴を持ち、
ゆえに取材する側としても難しい領域の一つだ。

話し手は有名大学病院の教授で、
大学の枠を超えた集まりでも座長を務めるほど地位、実力とも高い医師。
しかし、一般にもたいへんわかりやすいお話しで、
1時間半があっと言う間に感じるほど、会話がスムーズに進んだ。
今は治療法に限りのある病態についても、
「将来は、こんなこともできるかも知れない」と、展望をお話しくださったときの
高揚した感じ、キラキラしたお顔だちが今でも脳裏に焼き付いている。

取材後、同席したクライアント側の営業さんが、私を褒めてくださった。
「さすがインタビュー慣れしていますね」
-ここまで深い話は、我々ふだん、なかなか聞けないのです。
先生、ノリノリだったじゃないですか。-

そんな、くすぐったいような言葉を素通りさせながら、
私は2年前のある日のことを思い出していた。


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2年前の冬。その日も脳腫瘍の取材だった。
取材先は、今回とは別の病院の、私より少し年上と思われる中堅の医師だ。
おもなテーマは、病理学上もっとも悪性度が高いとされる
「膠芽腫(グリオブラストーマグリオーマ)」。
事前に勉強したものの、やはり難しい。
でも、今までの取材経験から、
インタビューの要領は得ているので、何とかなるのではないかと
今思えば「えいやっ」という気持ちだったかも知れない。

しかし、落とし穴は思わぬところにあった。

知識が足りない部分は、その都度聞けば、どの医師も丁寧に教えてくれる。
(わからないのに、質問が恥ずかしいからとそのまま流してしまうことが一番いけない)
でも、このときの取材は、この病気に対する私の基本スタンスが
「なっていなかった」のだ。

この取材は、言うまでもなく書籍を制作するためのものである。
だから、どうしてもインタビュー側の心理として
「書籍のネタとして読者の気を惹く=売りになる」言葉を引き出したがる。
そこで、
有効な治療法がほとんどないとされ、予後も思わしくないこの病気に対し、
あるアプローチのもと臨床研究を行っているというこの医師に
「それで、成果は出ているんですか? どのくらい、いいんでしょうか?」
といったような、「成果」=読者の惹きになる内容 ばかりを問うてしまった。

そのときの、医師の曇った表情は、
時間が経つにつれ鮮明に思い出され、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
なにしろ難治性の病気。
国の限られた予算で、ようやく研究開始までこぎつけたことが
当時の「成果らしい成果」だったのだ。


-この病気と向きあっている患者さんや医師の気持ちに立つことが
できなかった-
2年間、何かにつけ思い出し、そのたびに、のどが詰まるような感じがしていた。
そして今回、また取材の機会が与えられると聞いて、
今度はそうなるまい、と心に決めていた。


でも。


以前の先生はその後別の病院に移ってしまい、
取材対象から外れてしまった。


できれば同じ医師に会って、
成長した自分を見てもらいたかった。
あのときの、気まずいムードを一掃したかった。
(……というのは、たいへん独りよがりな願いだけれど。)
せめてこれからは
2年前の医師が見せた悲しそうな表情に代えて、
今回の医師が、
もしかしたら自身が生きているうちには実現まで行かないかもしれない
治療のアイデアについて、
眼を輝かせながら話してくださったその表情を忘れずに、
医学と、仕事と、向き合っていこう。

コメント一覧

神奈川絵美
Tomokoさんへ
こんにちは、そうだったのですね、悲しい思いをされましたね……。
私も、取引先の方が3年近く前に脳腫瘍で亡くなりました。50歳そこそこだったと思います。研究では遺伝子治療まで、世界レベルでは臨床(研究)も進んでいるとのことですので、早く良い治療法が確立されたら…。
私も、見守っていきたいし、広く伝えていきたいと思っています。
Tomoko
いつの日にか
こんばんわ。
さきほど熊本から戻りましたが、旅先でこの記事を拝読。
実は、私の友人たちの弟さんや同級生、そして私自身の知人と、4人もの人がこの6~7年で脳腫瘍で亡くなりました。それも20~40代という働き盛りの男性ばかりなのです。
脳腫瘍の、またさらにどんな病気だったのか詳しいことはわかりませんが、その報せが入るごとに、みんなこんなに若いのにどうして?という思いをしました。
絵美さんのお仕事の反省から学び得たことって、この先、たとえその先生とまたお会いする機会があろうとなかろうと、その学び自体が絵美さんの貴重な糧になるものだと思います。そこからさらに、医療する側と患者のより良い架け橋になっていただければ何よりのことです。
どうぞこれからも、がんばってください。
神奈川絵美
amethystさんへ♪
こんにちは コメントありがとうございます
私なんて大した知識もスキルもないので、せめて気持ちだけは、まっすぐでありたいとは思うのですが…。まだまだかなあ。

このアーガイル柄、自分のものながら可愛いですよね。一部にモール糸が使われていて、いかにも「現代のデザイン」という感じ。
あまり出番がないのですが、お気に入りです
神奈川絵美
風子さんへ☆
こんにちは そうですよね、それを自身の生涯をかけて追っている医師を見ると、こちらも身が引きしまる思いです。

私も、医師から「予算」や「マンパワー」の話を聞くと、我々が思っている以上に、さまざまな制約の中で治療したり、研究したりしているんだなあ、と痛感します。その中で、地道に取り組んでいる人々のことをもっと取り上げられればいいのですが…。
商業主義の視点が入ると、どうしても情報は偏りがちになりますよね。
amethyst
こんばんは。
記事を読ませていただいて
絵美さんの仕事に対する真摯な思いを
感じました。
また難しい領域のお話になのだろうけど
それが黒スーツの方相手だと引き出せないものも
絵美さんの着物パワーと笑顔で
大事な取材という場を後押ししてくれているんだろうなって思いました。
医療の人の尽力に大きな希望が常にあるって
願ってます。
アーガイル柄はブリティッシュ風ニットで可愛いですね。
風子
http://blog.livedoor.jp/fuko346/
こんばんは。

絵美さんの「書くこと」への真摯な気持ちが表れているお話だと思いました。
治る方向へのお話は期待されるし、話やすい。
でも、治るもの、ばかりではありませんもの。
今は治らないけど、研究なくしては前に進みませんものね、とても大事なことだと思います。

私も、医師や看護師など、医療従事者の苦悩を知ったときから、視点が広がりました。
そういう視点を、ただ淡々と、一般の人にも伝えるメディアが増えるといいなあ、と思います。
今はどうも、あっちもこっちも偏っている気がしています。
神奈川絵美
ロンドンの椿姫さまへ★
こんにちは きゃーコメント嬉しいです そうでした、名古屋といえば椿姫さま!

うちの夫も、まったく椿姫さまと同意見なんですよ(出身は名古屋ではないですが)。なんかですね、初めて食べたときはやっぱり「硬い」と思ったそうなんですが、2回目から「クセになった」んですって。
ですから私も、もし2回目があったら好きになるかも…
神奈川絵美
やっぴーさんへ☆
こんにちは いやー私も、思い出したくもないようなイヤなことはすぐ忘れちゃいます 「気にしない」と「忘れる」ってフリーにおいては特に、大切だわーきっと。
ロンドンの椿姫
http://ameblo.jp/peraperaopera
>うどんが硬いよ~

それが特徴なんですよ、この有名店のうどんは(笑)。他所からいらした方が「硬過ぎわよね」と仰っているのを聞くと、地元の人は「だから美味しいんですよ」と教えて差し上げる場面によく出くわしました。
ああ、食べたいなあ、山本屋の味噌煮込みうどん・・・
やっぴー
ちゃんと過去を踏まえ
より以上の成果を出されてる事…拍手です
その時の方ではなくても十分だと思います。

ワタシなど最近大きな単純ミスが続き凹み気味です。
数日で忘れてしまう鳥頭だからイケナイ気がしますが(大汗)
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