神奈川絵美の「えみごのみ」

俺が名を今からは - 五月文楽第一部 後編 -


26日を以て、人間国宝・竹本住大夫さんが現役を引退した。
私は文楽超初心者のため、住大夫さんのお声は二回しか、
聴く機会がなかったが、
最後の晴れ舞台を見届けることができて、心から良かったと思っている。

その引退公演
「恋女房染分手綱」より沓掛村の段は

(写真下、見切れていますがちゃんと「与之助」と書かれた迷子札が!)

先代の六世竹本住大夫さんの引退公演もこの演目だったとのこと。
展開に大きな盛り上がりはないが、たくさん登場人物が出てきて、
語り分けも難しいし、
話の筋を理解するのに欠かせない、やや複雑な事情説明もあり、
大夫の腕の見せ所、声の聞かせ所満載。
もうあまり声量はなくて、でも、しみじみと語って聴かせてくださり、
観終わった後に「情緒のある舞台だった」とじんわりくるものを感じた。

そして人形遣いの方々も豪華。
引退に花を…と、蓑助さん、文雀さん、勘十郎さん、そして和生さんが
舞台上に横一線に並んだ(人形とともにですが)場面では
ビギナーの私でもじーんときた。

主人公の八蔵が武骨な大男で、母は容積でいって
その約4分の1しかなく、ちょっと不自然ではあるのだけど、
「先の長くない病人」がよく表されていたと思う。
蓑助さんの与之助は、大人たちがしゃべるたびに、無邪気に首を
ひょい、ひょいと左右に振ったり、盲人の慶政の手を引くところも
たどたどしくて、可愛らしかったなあ。


「増補忠臣蔵」より本蔵下屋敷の段は

絵に描いたような「イヤな奴」井浪伴左衛門と、
ヒロインである三千歳姫、そして主役の本蔵が、
少々軽妙なやりとりをする場面があり、
千歳大夫さんの語りが活き活きしていてとても面白かった。
話全体の筋は、ガイドブックがないとわかりにくのだが、
勧善懲悪なラストでスッキリ。

終盤、三千歳姫が琴を弾く場面で、
床で実際に琴を弾く鶴沢清公さんと、人形の「手つき」が
ぴったり、シンクロしていたところに感動。


「三十三間堂棟由来」 平太郎住家より木遣り音頭の段は

“柳の精”お柳の、柳の木に斧が入るたびにもだえ苦しみ、
だんだん弱っていく様子がとてもなめらか。
劇場チックなわざとらしさがなく、儚さが感じられ、さすが
蓑助さん、と感心。
それにしても(どなたかお友達も書いていましたが)
柳の木ってあんな大木になるものなのでしょうか……。
びくともしない柳の木が、お柳の息子であるみどり丸の綱引きで
しずしずと動きだす…という切場は、
私の好きな嶋大夫さんと富助さんの渋ーいペア。
でも今回、この場面は静か目で、嶋大夫さんの“頭の血管が切れそうな”語りはなく、
私としてはやや不完全燃焼
富助さんの味わいがありつつもクールな三味線は、今回も健在で嬉しかったです。

コメント一覧

神奈川絵美
風来坊さんへ
こんにちは。
コメントをくださいまして、ありがとうございます
文楽にたいへん思いの深い方でいらっしゃるのですね。
長年、住大夫さんをご覧になられていたご様子、
心中、お察しいたします。
私は、文楽に通うようになったのはここ2年弱なので、
お元気なころの住大夫さんを、生で聴きたかったです。

放映の情報を、ありがとうございました。
ぜひ観たいと思います。
風来坊
今、昨晩放送された住師匠のドキュメンタリーを見ております。
東京公演は仕事でどうしても行けずでチケットをなくなく手放したため、わたくしは大阪公演が聴き納めとなりました。
お姿やお声はどうしてもかつてのような大きさは感ぜられなかったものの、それを補って余りある深さがありました。
ドキュメンタリーを見て、再び泣いております。
なお、来月終わりに、その収録された映像が放送されるようです。
とつぜん失礼致しました。
神奈川絵美
香子さんへ
こんにちは
なるほど~細かい設定は全然チェックしていませんでした。
今回は、子どもが死んだり、理不尽な身代わりなんてのがなかったりで、心穏やかに観られて良かったです。

柳の木・・・いわくつきになるとあんなに太くなるものなの
でしょうか(笑)
香子
増補忠臣蔵、ワタシ的には突っ込みどこいっぱいでした
桃井家の所領は鎌倉近辺の設定はずだのに
花川戸とか出てくるし(思わず「助六かよ」と…笑)

そして三十三間堂の柳! 見事な大木でしたね(笑)
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