今年のノーベル医学生理学賞は、
がん免疫応答分野の受賞でした。
ニュースを賑わせている「PD-1」「オプジーボ」といった言葉について
わかったようなわからないような…の方は、
昨夏、私が国立がんセンターの医師に取材したこれらに関する記事が
まだ読めますので、
良かったら下をクリックしてみてください。
一般向けで、かなりわかりやすいのではと自負しています。
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ネットニュースを眺めていると、
オプジーボ(一般名ニボルマブ)への関心が高く、
どこで投与を受けられるのか、といった問い合わせが
製薬会社等に集中しているようです。
しかしながら、公的保険制度の下では、
前掲の記事中にもあるとおり、適応が定められています(記事は昨年のものなので
変更が生じている可能性はあります)。
適用外で投与している医療機関は、自由診療であり、
その医療機関独自の判断で治療をしています。
非常に勉強熱心で真摯な医師ももちろんいらっしゃいますが
全体を俯瞰して一言いうならば「玉石混交」です。
また、ニボルマブは投与後のバイタルチェック、副反応の管理を
慎重に行うべき薬剤で、記事にもありますが薬物療法に精通していることや
他科との連携がスムーズにできる施設での受療が勧められます。
半世紀以上にわたる抗がん剤の歴史の中では
画期的な治療アプローチですが、
決して夢のような、誰にでも効く薬とは(残念ですが)いえませんので
この、ノーベル賞受賞という佳い報せを機に
少しでも、免疫療法について知っていただけると、
2009年から断続的ですが取材を続けてきた立場の者としては、嬉しいです。
(ここからは、個人的な思い出話です)
約10年ほどの数々の取材経験の中で
忘れられない1シーンがあります。
それは、癌研有明病院に、病理の取材をしたときのことでした。
病理とは、がん細胞を顕微鏡や、化学的手法で観察して
性質を見極める仕事です。
2008年ごろだったと思います。
まだオプジーボ(ニボルマブ)は登場していません。
雑駁に言って、当時、病理医の地位は外科医など他科に比べ日本では低く
見られていました。
米国では「医師の中の医師」と尊敬されているのに、
日本では手術等で実際に患者さんを治療する医師の方が偉い、みたいな
空気がありました(医学界は否定するでしょうけれど、報道サイドには
よく伝わってきました)。
そんな中
私は編集者と2人で、日本のトップ3のひとりと言われる病理医に
話を伺いました。
その、日本のトップ3の方が
帰りのエレベーターの中で、深々と私たちに頭を下げたのです。
「病理に興味を持ってくださって、ありがとうございました」と。
当時、がん関係の一般向けの取材記事で、
病理に言及した媒体はほとんどありませんでした。
その方のお人柄がそうさせた一面もあるのかも知れませんが
一報道関係者に……と、私たちは絶句したものでした。
それから数年の間に、
がん薬物療法はどんどん広がりをみせ、
それとともに、細胞を調べて薬が効きやすいかどうか調べる病理の重要性も
徐々に認知されてきました。
オプジーボ(ニボルマブ)も、薬を効かせるPD-1という受容体の発現率
(多いか少ないか)で効き方が左右されますので
病理医の腕にかかってきます。
それでもまだまだ、待遇は…といったところですが、
「病理医は今やスターだよね」と編集と話していても何の違和感も
ない状況になってきました。
まだノーベル賞が発表されていない、先週のこと
その編集さんと別件で仕事をしていたのですが、
たまたま乳がんの病理の話になり、
「私たち、道筋をつけたよね」彼女の言葉を聞き、じんわりとこみあげるものが。
微力だけれども、
歴史を動かす〝コロ”の一つくらいにはなっている
10年以上続けて、ようやく、ようやく実感が持てるようになりました。