神奈川絵美の「えみごのみ」

アイリスの美学

(前回の続き)
さて、取材は和やかなムードで無事終わり、
せっかくだからと自由が丘の街を少しのんびり歩く。


駅にほど近いサンセットアレイには、
南欧を思わせる白を基調としたお洒落な店が並ぶ。
その中ほどにある小さな美術館に立ち寄った。

ガレやドーム、ルソーといった、
アール・ヌーヴォーの作家たちによるガラス工芸品が展示されている。
入場料と引換にもらった簡単なパンフレットには、
-1889年のパリ万博で花開いた様式-とあるから、
以前書いた柴田是真とほぼ同時期だ。


撮影可とのことで、何枚か写真を撮った。
のびのびと浮かび上がってくる草花や蝶々。
やわらかな色彩と光。
ジャポニズムとの出合いにより伝統から解き放たれた表現様式は
当時の欧米の人々に深い感銘を与えたという。


この、キノコみたいなフォルムは、ドーム兄弟独特のものだそう。
左は、葡萄にカタツムリが宿を求めているデザイン。
今見ても、斬新だ。


中でも印象に残ったのはこの花瓶。
こちらもドームの手によるものだ。
ほかの作品が愛らしく情感豊かなのに対し、
これだけブラック&ホワイトで冷たい感じ。

モチーフは「アイリス」。解説によると、
花の命が尽き枯れていく様をあらわしているそう。
そしてこの作品にはもう一つ、「蜻蛉」という主役がいる。


アップで撮ってみた。
透明な上に透明なおうとつで描かれているので、近寄らないと
よくわからない。
アイリスが咲き誇っていたときには蜻蛉も生き生きと、色をまとって
花に身を預けていたのに、
枯れてしまえばこちらも色を失い、儚げに彷徨うばかり…という意味らしい。

これだけだと何とも救いがないが、解説には続きがある。
この写真ではよくわからないが、実は一番下の脚部に、
球根が描かれているのだ。
さらに、新芽や蜻蛉の幼虫も…。

つまり、自然の摂理で今見えている命は尽きても、
季節が巡るまで命は繋がれ、やがて新たな命が生まれる、という
実は穏やかな希望に満ちたテーマなのだ。

うーん、深いな…と唸ってしまった。
影のごとく、黒く枯れたアイリスが、なお凛とした姿でいるのは
次の時代へ命を繋いでいるという誇りからなのか。

1893年の作品、もう120年近く昔のアイリスだが、
今もこうして観る人に、命の尊さを問うている。

----------------------------------------------------------


美術館そばの雑貨店で、
何となく石鹸を衝動買い。右はグレイン入りで、ほのかな甘い香りが
癒しになってくれそう。タイでつくられたものだそうです。

次回の更新は8月17日前後の予定です。
お盆の期間、コメントをいただいた場合多少アップが遅くなると思いますが、
ご了承ください。

コメント一覧

神奈川絵美
やっぴーさんへ♪
こんにちは 一誠堂さん、小じんまりしていていいところでした。でも観覧料(500円)は少し割高かなあ。

私も仕事か何かのついでがないと、なかなか自由が丘には足を運べません
神奈川絵美
運動会の足袋さんへ☆
こんにちは 枯れた植物を題材…って、ある意味哲学を感じますよね。想像でしかありませんが、日本美術の影響も受けていたりかも…。

>いつでも《本物》をフラッと
そうなんですよね、でも「いつでも見られるから」なんて思っていると、いつになっても見られなかったりという<東京タワー化現象>も
やっぴー
シルエット
ガレの作品好きです~♪
そしてこういうシルエット柄も (^-^)b
近いのになかなか行けないガオカ。。。
時間を見つけて行ってみようかしらん
運動会の足袋
着眼点
http://blogs.yahoo.co.jp/tanbishugi
撮影OKとは、
なんとも寛大な美術館ですね~♪
素晴らしい!!

誰もが見過ごしてしまうような
「枯れた植物」や「地味な昆虫」を
デザインのチカラで
《芸術》にまで昇華させてしまう、
その着眼点のスゴさに驚かされますねぇ~!!

都会の良いところは、
美術にしろ、演劇にしろ、
いつでも《本物》をフラッと気軽に
見られることではないでしょうか♪

羨ましいデス~!
神奈川絵美
ゆかりーなさんへ♪
こんにちは この花瓶、何だかゾクッとするんですよね…もし部屋にあったら、そこだけ空気が違っちゃうかも。
こうして、一つひとつの作品の意味などを知ると、また見方も変わりますよねー
ゆかりーな
迫力ですね
アイリスの花瓶だけは他の作品とトーンが違うような気がします。クールですねぇ。蜻蛉がまたこの花瓶に迫力を増しています。

球根に救われた思いです。ホッ
神奈川絵美
りらさんへ☆
こんにちは ガラス工芸、人気なんですねー。おっしゃりたいこと、わかります。こう言っては何ですが、デザインに魂がこもっていないような…。
アール・ヌーヴォーのこれらの作品は、今見ても新鮮ですよね。
ガラスでいえば、江戸や薩摩切子にも、同じような感覚を憶えることがあります
神奈川絵美
RUBEさんへ♪
こんにちは まさにアートですよね~私も観ていてウットリしました
ここ、宝石店のプライベート・コレクションで、決して広くないのですが、撮影もOKですし、カフェも併設されていて、ちょっと時間が空いたときにいいかな、と思いました。
RUBE
ステキ
撮影可なんですね。
目の保養をさせて頂きました。
きれいだわ~(*^_^*)
りら
やはり・・・
今、この地はガラス作りが大流行でして、抽象柄のあれこれがあちこちで売られています。
ガラス、好きなんですけど・・・・あまりにお手軽(いえいえ、作品作るのに手軽ってことは無いでしょうけれど)っぽい抽象柄を見続けると、ちょっと辟易してしまうんです。
それに引き換え、昔の本物たちの素晴らしさよ・・・・
残っていく物の(美の)力を感じますねぇ。
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

※ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「着物deオフタイム」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事