突然ですが、ケバブってなんでしょう?
上の写真のように、私たちが普段目にするケバブは、正式にはドネルケバブと言います。そのドネルケバブの見た目を説明することはできても、単語として説明できる方は、そう多くいらっしゃらないのではないでしょうか。また当ブログのタイトルは「ドネルケバブログ」ですが、そもそもケバブとドネルケバブは何が違うのでしょうか。
このたび当ブログ開始から1年以上、そしてケバブを食べ始めて早4年の私が、そもそもケバブとはなにか、そしてドネルケバブとはなにかを説明してみました。
「これさえ読めば、ケバブがわかる。」
そんなコンセプトで書かせていただきましたので、長くなりますがお付き合いください。
■そもそもケバブとは…
ケバブとドネルケバブという、2つの単語が出てきているので、まずはケバブとはそもそも何かについて、言葉の意味や種類について、解説していきたいと思います。日本ではドネルケバブのことを、ケバブと略して言う場合が多いですが、本来ケバブとはどんな意味なのでしょうか。
―言葉の意味
ケバブ(Kebap)は、トルコ語で「炙って焼いたもの」という意味です。
唯一の日本語―トルコ語辞書では、「焼肉」と訳されていますが、実際には焼肉以外のケバブはあります。例えば、焼き栗のことはトルコ語で「ケスターネ・ケバブ(Kestane Kebabı)」と言います。その他に、魚のケバブや野菜のケバブもありますが、トルコでもケバブと言えば「肉のケバブ」を連想するのが一般的です。
▼ケスターネ・ケバブ
(3年前のイスタンブールにて)
―ケバブの種類
さて、日本のトルコ料理屋に行くと数々の「~ケバブ」を食べることが出来、これらはほぼ「肉のケバブ」です。単に「肉のケバブ」と書きましたが、実はそれだけでも無数にあり、日本のトルコ料理屋で食べられるのは、ほんの一部です。
それら無数にある「肉のケバブ」の代表的なものを、わかりやすく3つのカテゴリーに分けて紹介します。さて、ドネルケバブはどのカテゴリーに属しているのでしょうか。
1.地名+ケバブ
日本にも讃岐うどんや伊勢うどんがあるように、トルコには地名を冠したケバブが複数あります。
例えば、トルコ第5の都市アダナの名物で、とても辛くて有名なアダナケバブ(Adana Kebabı)。
▼アダナケバブ
そしてトルコ南東の地域ウルファの名物で、アダナケバブに形がよく似ていますが、辛さが控えめなウルファケバブ(Urfa Kebabı)。
▼ウルファケバブ
(トルコ料理屋「ドルジャマフセン」様にて)
この2つは、日本のトルコ料理屋でも食べることができるケバブとして挙げられます。これらのケバブは、日本の約2倍の国土面積を持つ、トルコ各地域の多様で豊かな食文化を反映したものと言えます。
2.食材+ケバブ
食材と組み合わさるケバブも数多くあります。
最も有名なのは、パトルジャンケバブ(Patlıcan Kebabı)で、ナスのケバブという意味です。
▼パトルジャンケバブ
(Adobe Stockにて購入)
このパトルジャンケバブだけでもバリエーションがあり、例えばナスをくり抜いて肉を詰めるボスタン・パトルジャンヌケバブ(Bostan Patlıcanı Kebabı:野菜畑のナスケバブ)に、パトルジャンケバブの上にホワイトソースを載せて焼くベシャメルソスル・パトルジャンケバブ(Beşamel Soslu Patlıcan Kebabı)などがあります。実際にトルコのレシピサイトを見ると、これらが家庭で楽しまれていることがわかります。
▼ボスタン・パトルジャンヌケバブ
http://www.nefisyemektarifleri.com/kusbasi-etli-bostan-patlicani-kebabi/
(トルコのレシピサイト「Nefis Yemek Tarifleri」のボスタン・パトルジャンヌケバブのページへ)
▼ベシャメルソスル・パトルジャンケバブ
http://www.nefisyemektarifleri.com/besamel-soslu-patlican-kebabi/
(トルコのレシピサイト「Nefis Yemek Tarifleri」のベシャメルソスル・パトルジャンケバブのページへ)
その他に組み合わされる食材としては、トマトやジャガイモ、手元にあるウルファ地域の料理本には、リンゴと組み合わせるケバブもあり、こうした食材の組み合わせにも地域色が伺えます。
▼エルマケバブ(Elma Kebabı:リンゴのケバブ)
(手持ちのウルファ地域の料理本『Urfa'da Pişer ~Bıze de Düşer~』より)
3.調理器具+ケバブ
調理に使う道具の名前を冠したケバブもあります。
代表的なのはシシケバブ(Şiş Kebabı)で、シシとは串という意味です。つまり「串に刺して炙って焼く」という意味になり、これは日本の串焼きと同じ発想です。
▼シシケバブ
(Adobe Stockにて購入)
タスケバブ(Tas Kebabı:鍋ケバブ)は、日本のシチューやカレーのように、鍋の中で炒めて煮込むケバブで、日本では煮込みケバブの名前で紹介されることもあります。最近では日本のケバブ屋でも、アレンジを効かせたタスケバブが提供されるようになりました。
▼タスケバブ
(Adobe Stockにて購入)
(スターケバブにて)
テスティケバブ(Testi kebabı:壺ケバブ)は、壺の中で蒸し焼きにするカッパドキア名物のケバブです。カッパドキア名物ですが、イスタンブールなど大都市でも食べられます。食べるときは、壺を割ったり切ったりすることがあり、レストランにもよりますが派手なパフォーマンスが行われることもあります。トルコにお出かけの際は、ぜひお召し上がりいただきたい、インパクトあるケバブです。
▼テスティケバブ
(Adobe Stockにて購入)
―おさらい
ケバブとは、トルコ語で「炙って焼く」という意味で、野菜や魚にもケバブはありますが、トルコでもケバブと言われて連想するのは、「肉のケバブ」です。その「肉のケバブ」だけでも無数にあるので、今回は代表的なものをカテゴリーに分けて紹介しました。
ケバブと一言に言っても、とても奥が深いことを知っていただき、日本のトルコ料理屋そしてトルコへお越しの際は、ぜひお召し上がりいただきたいです。
■そしてドネルケバブとは…
さて、ここからは私たちが普段目にするケバブ、すなわちドネルケバブ(Döner Kebap)について解説します。言葉の意味はもちろん、実はドネルケバブは今まで紹介したケバブとは異なる立ち位置にいる食べ物なので、誕生についての簡単な歴史を踏まえて、ドネルケバブはどのような立ち位置の食べ物なのかを紹介します。
―言葉の意味
ドネルケバブのドネル(Döner)とは、トルコ語で「回る、回転する」という意味で、先述のケバブ(Kebap)と合わせると、「回転しながら炙って焼く」という意味になります。正式名称はドネルケバブですが、トルコではドネルと呼ばれています。トルコ系移民が多いドイツでもドナー(ドネルのドイツ語読み)で呼ばれています。
―誕生の歴史
ドネルケバブは、日本では時に「トルコの伝統料理」として紹介されることがありますが、実は誕生から200年経っていない新しい食べ物です。
ドネルケバブの歴史は1830年、トルコのカスタモヌという街でハムディ ウスタ(Hamdi Usta)氏が発明したことから始まります。
(※1830年とする資料や19世紀半ばとする資料もあります。)
下の写真は、1855年に「世界初の戦場カメラマン」とも言われるジェームス ロバートソン(James Robertson)氏が、トルコで撮影したドネルケバブの写真です。この写真が最も古いドネルケバブの写真だと言われています。
(Wikipediaより)
この写真よりも古いイラストも存在します。こちらのイラストは、1850年に描かれたものです。どちらの資料も、最初期のドネルケバブを今に伝える貴重なものです。
(Wikipediaより)
(トルコ・アンタルヤのケバブ屋にて)
―ドネルケバブの立ち位置
写真やイラストをご覧頂けるとわかる通り、ドネルケバブは野外や軒先で作られる食べ物で、すなわち今でいうところの【ファーストフード】として誕生して発展しました。今まで紹介してきたケバブは、レストランや家庭で作られる【料理】なので、ドネルケバブは【ファーストフード】、他のケバブは【料理】という、そもそもの立ち位置の違いがあります。そのため、先述の3つのカテゴリーには入らなかったのです。
立ち位置が異なるので、当然食べる場所も違います。
トルコでドネルケバブを食べるときは、ドネルジ(Dönerci:日本人の言うケバブ屋と同じイメージ)と呼ばれるドネルケバブ専門店に行く場合がほとんどです。他のケバブは、ロカンタ(Lokanta:食堂)やオジャクバシュ(Ocakbası:炉端焼き屋)、メイハーネ(Meyhane:居酒屋)と呼ばれる飲食店で食べられます。(※一部のロカンタやファミレス的な場所では、ドネルケバブも提供する場合があります。)まるでハンバーガーとハンバーグのようです。
ドネルケバブは、日本では当然のようにトルコ料理として受け入れられ、時には伝統料理とまで言われますが、ここまで読んでいただければお分かりいただけるように実際には歴史が200年も経っていない新しいファーストフードです。私たち日本人で例えると、たこ焼きのような存在かもしれません。
たこ焼きは、前身である明石焼きやラジオ焼きも含めてファーストフードとして発展してきました。食べる場所(買う場所)は、ほぼたこ焼き屋です。たこ焼きは、もちろん日本の料理ですが、懐石料理と同じ「和食」のカテゴリに入るかと言われると、賛否が分かれると思います。「ドネルケバブをトルコ料理と言われるのは、これと同じ気持ちだ。」と、トルコの方から言われたことがあります。
―おさらい
ドネルケバブは、「回転しながら炙って焼く」という意味で、1830年にトルコで生まれました。他のケバブが【料理】なのに対して、ドネルケバブは誕生から【ファーストフード】として発展していきます。そのため食べる場所も他のケバブと異なっています。
■まとめ
さて、いかがだったでしょうか。とにかくケバブとドネルケバブが、なんとなくでもわかっていただければ幸いです。
ケバブとドネルケバブはどちらも、トルコには欠かせないものとして今も愛されています。イスタンブールに行ってみると、レストランに入ると様々なケバブが楽しめ、街中にはたくさんのドネルジがあって食べ歩きを楽しめます。
ケバブそしてドネルケバブは、どちらも奥深い世界です。これからも質の高い情報をお届けできるよう、自分の足と舌で頑張っていく所存です。よろしくお願いいたします。
最後に当記事執筆にご協力を賜りました、練馬のトルコ料理屋「ドルジャマフセン」様、写真を一生懸命探してレシピサイトを紹介していただいたトルコの友人、そして「ケバブって何?」という当記事を書くきっかけを与えてくれたFacebookの友達に、この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。