武士の家柄に育った著者が、縁あってアメリカに移住し、当地の雑誌に連載した半生の記である。ただ、著者は訳者にこれは自伝ではないと言っている。
杉本鉞子は明治6年、長岡藩の主席家老であった稲垣氏の三女として生まれた。長岡藩家老といえば維新当時、藩主に重用された河井継之助が知られている。著者の父は恭順派であった。彼女の幼少期は、まだ藩政の気風が色濃く残る中、士族が没落し北国でも開化の足音が高 . . . 本文を読む
しばらく前からレンタルビデオで鑑賞していた「ダウントン・アビー」全55話を見終わった。200以上の国・地域で放映されたイギリスのテレビドラマ。ダウントン村の大邸宅を舞台とする、貴族の一家と使用人たちの物語である。
大地主であり、大富豪でもあったイギリスの貴族階級が、19世紀の終わりから第1次世界大戦を経て農産物の暴落、土地税制や相続税の改革により経済的に困窮し没落していく。また平等という社会 . . . 本文を読む
倍賞千恵子の「桐子」
鳶の頭、栄次と桐子はいまも気軽に話せる仲。桐子の店の小料理屋でしみじみと酌み交わす場面がある。このシーンは、後に同じ脚本家によって設定を変えて再現される。
「あにき」から4年後。映画「駅STATION」で二人は共演する。役名も高倉は英次、倍賞はそのまま桐子である。映画のワンシーン。年も押し詰まった大晦日、雪深い町の居酒屋「桐子」。テレビでは紅白歌合戦が中継され、二人 . . . 本文を読む
高倉健が出演した数少ないテレビドラマ。1977年 TBS制作。
テレビに勢いがあった時代で俳優陣が充実している。主役の鳶の頭、神山栄次に高倉健。島田正吾、田中邦衛、小林稔侍、阿藤快。大滝秀治。狂言回しに漫画家の滝田ゆう。女優陣では大原麗子、秋吉久美子、倍賞千恵子、春川ますみ。脚本は倉本聰。
舞台は東京水天宮のお膝元、人形町。主人の死で老舗の商店が潰れる。借金の保証人になっていた旦那衆から . . . 本文を読む
最近、気持ちがギスギスしている方にお薦めの映画。
「アメリ」 2001年フランス
病気を理由に学校教育を受けさせてもらえず、少女時代は孤独で空想の世界にいたアメリ。やがて成人し家を出て一人住まいを始めるが、世間とのコミュニケーションがうまく取れない。そんな彼女がモンマルトルのカフェで働き始める。
アメリは偶然、アパートの壁の穴から小さな箱を見つけ出し、それを切っ掛けに子どものように人々 . . . 本文を読む
京都市役所の西側、寺町通御池を少し上がった所に尚学堂という古書店がある。その店が建て替わる前のこと。池波正太郎が古地図を探していた時、店内に黒いソフト帽の大学教授のようにも見える人物がいた。その姿が彼の目に焼き付いて「剣客商売」の主人公、秋山小兵衛の風貌に結実する。ソフト帽は歌舞伎役者の二代目中村又五郎であった。
「剣客商売」は池波の代表作の一つである。小兵衛は剣の道を究めたのち隠棲し、世故 . . . 本文を読む
向田邦子が亡くなって四十数年になる。彼女はラジオエッセイの「森繁の重役読本」のほか、「七人の孫」「だいこんの花」「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」などのテレビドラマの脚本を手がけた。ホームドラマの原型を形作った脚本家の一人である。悪人を描かない人であった。
その彼女が人生の後半になって、テレビからエッセイや小説の世界に足を踏み入れた。辛口コラムで知られる山本夏彦は、彼女のエッセイ . . . 本文を読む
「ローマの休日」を観ていて、グレゴリー・ペックの「コールドコーヒー」という言葉に昔の記憶が甦り、つい話が長くなりました。ついでにもう少し。
この映画では、よくリラ札を使う場面が出てくる。戦後の暫定紙幣のようで、高額紙幣は千円札の倍くらい大きい。財布に収まらないのか、ポケットから無造作に取り出している。ヘプバーンが一晩厄介になった後、ペックが文無しの彼女に貸したお金が千リラ。彼女がこ . . . 本文を読む
もう一つ、そうなんだと思ったことがある。ヘプバーンがスペイン階段でアイスクリームを食べる有名なシーンがある。階段下の屋台で彼女が「ジェラート」と注文すると、親父がジェラートだねと言って差し出したのが、三角コーンに盛ったアイスクリームだった。ソフトクリームではない。ディッシャーで掬った丸いアイスである。
彼女の一言で、そうかイタリアでは昔からジェラートなんだと納得した。もともとジェラートはイタ . . . 本文を読む
「ローマの休日」とスターバックスとは何の関係もない。たまたまスタバデビューした夜に、NHKのBS放送で字幕版「ローマの休日」を観たというだけ。世界大戦後、ハリウッド全盛時代の明るい映画で、なによりも華奢なヘプバーンの気品ある、そして弾けるような演技がいい。
晩酌をしながら観ていたら、カフェテラスのシーンになった。そこで王女様のヘプバーンがシャンパンを所望し、懐がさみしいグレゴリー・ペックはち . . . 本文を読む