高倉健が出演した数少ないテレビドラマ。1977年 TBS制作。
テレビに勢いがあった時代で俳優陣が充実している。主役の鳶の頭、神山栄次に高倉健。島田正吾、田中邦衛、小林稔侍、阿藤快。大滝秀治。狂言回しに漫画家の滝田ゆう。女優陣では大原麗子、秋吉久美子、倍賞千恵子、春川ますみ。脚本は倉本聰。
舞台は東京水天宮のお膝元、人形町。主人の死で老舗の商店が潰れる。借金の保証人になっていた旦那衆から栄次が住む界隈に立ち退き話が持ち出され、栄次は旦那衆と横町の人々との間で板挟みとなる。栄次をめぐる三人の女性。兄妹の二人暮らしで、病気で婚期が遅れた妹の「かい」。恩義がある商店主の、親子ほども年が違う娘「恵子」。淡い恋仲だった幼馴染の「桐子」。物語は妹の結婚話を軸に展開する。
ドラマは全13話。人のつき合いが濃密な下町の人情話である。高倉健は、気性は荒いが無口でストイックな彼自身の役を演じている。頭の身を案じ、仕事の段取りと若い者をまとめる田中邦衛がいい。長丁場のテレビだからか、映画にはない遊びがある。
喫茶店のシーンがよく出てくる。島田正吾と高倉健の「アメリカン・コーヒー」をめぐる会話がおかしく、視聴者をくすぐる。高倉健のコーヒー好きを思えばなおさらである。当時、インスタントコーヒーのような薄い「アメリカン・コーヒー」が流行っていた。
栄次は桐子から、あなたは世話を焼いている恵子に恋をすると言われる。予言の通り栄次は娘に翻弄され、心が揺れ動く。栄次が、現代っ子の娘から額に口づけされるカットがある。それまでの高倉健の映画では見られない挿話。
任侠映画のパロディ。栄次がうなされて見る夢に「昭和残侠伝 唐獅子牡丹」が出てくる。映画のクライマックス、雪降る夜に二人で斬り込みに行くシーン。しかし夢の中、着流し姿に相傘で道行きするのは池部良ではなく、田中邦衛である。
ついでに私事ながら。
ドラマの中で、TBSの坂の上にあった赤坂シャンピアホテルがちらりと登場する。50年前、就職して初めての東京出張で泊まった小さなビジネスホテル。懐かしく思い出した。高層ビルになる前のTBSスタジオの横を下り麹町まで歩いて行った。(つくづく東京は坂の多い町だと思ったことだった)
(続く)
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