「けやぐの道草横丁」

身のまわりの自然と工芸、街あるきと川柳や歌への視点
「けやぐ」とは、友だち、仲間、親友といった意味あいの津軽ことばです

#14.砥部焼 工藤省治陶磁器集(2)

2013年06月06日 | 工芸
 
 
 
 ひと目で「天使の輪」を想わせる真っ白な縁(ふち)の輪。
 それとも「土星の輪」でしょうか?天体の形状には、真っ青な空と同じように、心洗われるものがあります。

 縁のある大皿は洋皿にはふつうに見かけますが、この皿の縁の内側は「鉄鉢/てっぱつ」(#9.を参照)と同じようにオーバーハングしています。
 断面で見ると、ひらがなの「ひ」の字のようになっています。
 スプーン・フォークの使用に始末のよい作りです。
 鉄鉢型のうつわに幅広の縁をのせたような構造です。
 内面には呉須の帯の下絵がめぐらされ、外面にはこれとのバランスをとるかのように、朱色の帯の上絵が一周しています。
 静と動。
 陰と陽。
 バーバー(理髪店)の三色ねじり棒の静脈と動脈。
 日常のうつわとしては複雑な形をしていますが、それを感じさせない全体としてスッキリとしたわかりやすく、受け入れやすい感覚があります。

 20年ほど前、出会った瞬間に大小各2個ずつわが家のくらしのけやぐ(仲間)となりました。
 大は大人用、小は子供用としてでした。
 成人してだいぶ立ちましたが、子供らの脳裏には今でもカレーライスの日の、白いワッカの印象が残っていると思います。

 広い縁には、使い手と食物とのあいだの空間的・時間的な距離を無意識のうちに感じさせるものがあると思います。
 「日常(ケ=褻)」の空間のなかに「非日常(ハレ=晴れ)」の空間を創りだす=「結界(けっかい)」の役割とでもいいましょうか。
 これがいわゆる「料理を引き立たせる」うつわというのではないかと思います。
 ともあれ、わが家の子育てに重要な役割を果たしたうつわたち、ということができます。

 さて、このうつわのボディ、どうやってつくったのだろうと、長いあいだ見るたびに考えさせられました。
 が、自分なりの結論としてはやはり、手ろくろで引き上げ、開いて、折りたたむようにまとめたのではないかと思います。
 縁の裏側に、連続的に押さえつけた指の跡がうっすらと残っているのがその根拠なのではと。
 この指跡は、何度となく皿洗いをした触感で発見し得たものでした。
 原則的に「型」を使用する磁器のうつわのなかで、他に例がない大胆な発想の技術による作品ではないかと思います。

 工房で、作り手のみなさんがワイワイガヤガヤ、丁々発矢とやり合いながら、新商品開発に取り組んでいらっしゃる場面が想像されます。
 もし、この結論が的を射ていなくても、つくられ方についてあれこれ想いを廻らせてみることは、手しごととのかかわりあいの大きな楽しみ方のひとつなのだと実感します。
 工藤省治さんのうつわとの出会いにあらためて感謝しています。


純白の皿の輪にある児の笑顔  蝉坊


▲ 画像データ:

【手前】 呉須朱線スープ皿/砥部焼/愛媛
工藤省治/梅山窯
径=250mm/内径=190mm/高=57mm
高台径=130mm/高台高=8mm
「工藤省治陶磁器集」54P・#73所載

【奥】 呉須朱線カレー皿/同上
径=210mm/内径=170mm/高=52mm
高台径=100mm/高台高=10mm
「工藤省治陶磁器集」52P・#68所載
平成3年度(1992)全国伝統的工芸品展
通商産業省生活産業局長賞受賞



《 関連ブログ 》
● けやぐ柳会「月刊けやぐ」電子版
会員の投句作品と互選句の掲示板。
http://blog.goo.ne.jp/keyagu0123
● ただの蚤助「けやぐの広場」
川柳と音楽、映画フリークの独り言。
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