ミニョンを乗せたストレッチャーが検査室に吸い込まれるように入っていくと、ユジンは緊張の系がプツンと切れてしまい、待合室のベンチにへたり込んだ。気がつくと、となりにはサンヒョクがいて、放心状態のユジンの代わりにミニョンの会社に連絡して、母親のカンミヒに連絡してもらうように頼んでいた。ミヒは生憎海外公演に行っているので、帰国するには1日がかりになりそうだった。ミニョンが緊急手術を受けている間、サンヒョクは友人たちにも連絡して、事の事情を説明するのだった。
やがてミニョンが手術室から戻ると、ベッドサイドに医師がやってきた。一向に目を覚さないミニョンを前に、ユジンは医師にすがっていた。繰り返しミニョンは助かるのか?と質問をするが、医師は「意識が戻るのを待ちましょう」と言うばかりで、ユジンはますます絶望の淵に突き落とされるのだった。そしてただひたすらに、頭に包帯を巻いて酸素マスクをするミニョンを見つめていた。そんなユジンにサンヒョクが心配そうに寄り添っていた。
やがて廊下をバタバタと走る音がして、チェリン、チンスク、ヨングクが病室に入ってきた。皆一様にミニョンの痛々しい姿を見て、言葉を失った。特にチェリンは泣き腫らした目でミニョンに縋りついて「目を覚まして」と声をかけつづけた。そんなチェリンに、チンスクが「チュンサンは大丈夫よ。」と励ますつもりで言ったところ、チェリンはキッとチンスクを睨みつけた。
「彼をチュンサンて呼ばないで!」
そしてベッドサイドに呆然と座っているユジンを、ひたと睨みつけると叫んだ。
「なんで事故に遭ったの?どうせ一緒だったんでしょ?」
ヨングクが止めようとしたが、チェリンの怒りは収まらなかった。
すると、ユジンが毅然とした表情で前をみたまま言った。
「、、、そうよ。わたしのせいよ。」
「何ですって?!チュンサンの次はミニョンさんまでこんな目に遭うなんて。あなたって大した女ね。」
チェリンの目がスッと細められて険しい表情になる。こんどはサンヒョクがチェリンをとめようとしたが、チェリンは怯まなかった。
「良かったわね。これで彼の記憶が戻るかもしれない。さぞかし嬉しいでしょう。」
ついに、チンスクとヨングクがチェリンを病室から引き摺りだそうと両腕を引っ張ったがチェリンは気が治らずに抵抗していた。
すると、ユジンがミニョンを見つめたまま、険しい顔で言った。
「嬉しいわ。チュンサンは私を助けようとしてし事故に遭ったの。わたしは彼がチュンサンだと気づかないバカだったのに、こんな形でも彼を取り戻すことが出来て、本当に嬉しいわ。どう、これで満足?もうほっといてよ。」
皆はユジンの投げやりな言葉に凍りついた。ユジンが未だかつて、こんなに強い言葉を投げかけたことはなかったのだ。ユジンらしく無くなるほど、彼女は自分を責め続けていた。皆は、静かに病室を出ていくしかなかった。
病院の外でヨングクとサンヒョクは言葉を交わした。ヨングクは思った以上に深刻な症状のミニョンと、自分を責め続けるユジンを心配した。そしてサンヒョクにユジンを頼んで立ち去った。
サンヒョクはそのまま近くをぶらぶらして、気分転換をしながら、ユジンのためにお粥を買ってきた。朝からサンヒョクもユジンも何も口にしていなかったからだ。ユジンは暗い廊下にひとり、打ちひしがれてポツンと座っていた。外はすでに真っ暗で、冬の冷たい空が広がっていた。その姿は明らかに自分をひたすらに責めているのが分かったので、サンヒョクの心はチクチクと痛んだ。サンヒョクは静かにユジンに近づくと正面に座った。そして冷静な口調で話しかけた。
「朝から何も食べてないだろ。これでも食べろよ。」
しかしユジンはポロリと涙を流して、それを手の甲で拭いながら、ガンとして食べようとはしない。サンヒョクは心を鬼にして言った。
「ユジン、頼むから食べろ。君が彼を看病するんだろ?そんな状態でどうするんだ?」
そしてお粥の蓋を開けて、ユジンの手にスプーンと一緒に押しつけると、席をたって帰って行った。
サンヒョクは歩きながら涙を拭った。これが今の自分の精一杯の優しさだった。愛する女性を別の男の元に置いてくるのに、涙を流さずにいられるだろうか。
ひとり残されたユジンは、サンヒョクの精一杯の優しさに感謝して、お粥を口いっぱいにほうばった。疲れすぎていて、悲しすぎて、何も味がしなかったが、とにかく力をつけるために、泣きながらひたすら食べた。ミニョンへの申し訳なさと、サンヒョクの深い優しさへの感謝と、自分の身勝手さと不甲斐なさで、泣けて泣けて仕方がなかった。
ユジンはお粥を食べ終わると、意を決してミニョンの病室に戻っていった。ユジンはミニョンの傍に座ると、涙を流しながら語りかけた。
「今日はあなたを失うのを怖がって、泣いてばかりでごめんね。もう怖がらないから。もっと強くなるから。こうやってずっと手を離さないから、あなたも私を離さないでね。絶対に目を覚ましてね。」ユジンはミニョンの手を両手で包み込んで、一晩中起きているのだった。ユジンの心はもう揺らがなかった。